その時、彼の本の表紙に目がいった。
──Santegujuperi
かろうじて、この一節が読めた。
「……サンテグジュペリ、ですか?星の王子様の?」
「あっ、これ?伝記本。なんだか、わかんないけど、こんどの課題、サンテグジュペリの人生についてなんだよ。英文科なのに、なんで、フランス文学なのか、わかんないんだけどね」
ふわりと笑った笑顔は、少しだけ幼く見えた。
「はあ……」
「って、君に愚痴っても仕方ないよね」
つっと、長く垂れる前髪を書き上げた彼の面持ちが、私の目に映る。
──綺麗……。
想像以上の、整った顔立ちに、私は思わず見惚れた。
「……サンテグジュペリも、なかなか、奥が深いよね……例えば……」
彼が、隣で何か喋っている。でも、私には、自分の鼓動しか聞こえてこない。
「あっ、ちょっと勝手に語りすぎてる?やっぱり、邪魔しちゃってるな」
彼は、スッと席を立った。
そして、じゃあ、と小さく笑って立ち去った。サンテグジュペリの伝記本を小脇に抱えて。
そのスマートな仕草と後ろ姿が、窓ガラス越しに見える、大樹を彩るミモザの花と、私の中で重なった。
ミモザの君──。
思わず、吹き出しそうになるほど古くさい表現だけど、あの黒縁メガネの彼には、ぴったりだと私は思った。