「此処いい?」

半年ほど此処で本を読んでいるが相席をお願いされたのは初めてだった。

「あ、どうぞ」
  
黒縁の眼鏡に長めの前髪で、イマイチ顔がはっきりとは見えないけれど、鼻筋は通っていて背が高い。

何より透明感のある綺麗な黒い瞳が、一瞬、あの子を思い出して胸がとくんと鳴った。

「じゃあ」

男の人は軽く会釈すると、私の隣に腰掛けた。長い足を組むと難しそうな英文の本に目線を向けている。

(どこの科の人なんだろう?)

少なくとも、この人は文学科では見たことないから、他の学部の人なのだろう。

(新しくできた英文科の人なのかなぁ?)

「宮沢賢治か、珍しいね」

「え?」

私が、あれこれ詮索していると、いきなり隣の彼が声をかけてきた。