あの日、いつものように向かった図書館の椅子に優君は居なかった。その代わりに優君がいつも座っていた椅子には、『銀河鉄道の夜』の本が置いてあった。四つに折り畳まれた緑色の紙切れを挟んで。

急いで開いたけど、文字は何も書かれていなかった。私は何も、書かれてないその緑色の紙を何度も眺めた。

ポタリと小さな水玉模様が緑色の紙を濡らした。気づいたら涙が溢れて止まらなくなった。

もう二度と優君に会えないと思ったから。

──優君が、何も文字を書いてない緑色の紙切れを本に挟んだのか、私は、ようやく分かった気がした。

あの折り畳まれた緑色の紙切れは、『銀河鉄道の夜』で、ジョバンニが、切符を求められた駅員さんに咄嗟にポケットから差し出したものと同じもの。

銀河鉄道で天空はおろかどこまでも、どこへでも行ける通行券。

本という世界で、私たちは一緒に旅をしている
だから優君には、別れの言葉は必要なかったんだ。

優君らしい。私は思わずクスッと笑った。