「星香ちゃん、ごめん!ちょっと、いい?」
先輩司書の水川さんが、わたしの所に、駆け込んで来た。
私は一気に、現実へと引き戻される。
「水川さん、此処、図書館ですからね。走らないでくださいよ」
「わかってるんだけど、ほら、吉田のおばあちゃんが、来ちゃって」
水川さんが、言葉を濁した。
「あっ、じゃあ私が、カウンター業務行いますよ」
「それは、新人君に頼んで来たから、申し訳ないけど、通用口に届いてる最新雑誌、お願いできない?」
確かに、転属しだての、若田君が、四苦八苦しながら、本の貸し出しと、返却作業を行っていた。
その脇にある、長椅子には、吉田のおばあちゃんが、座っている。
図書館の常連さんで、八十そこそこの、見事なシルバーヘアーの、しゃくしゃくとしたお婆さんだ。独り暮らしということで、毎日、ここへ通って来ている。
いつも、俳句や、短歌の、季刊誌やら、借りて帰るのだけど、本当の目的は、お喋りだった。