「なぁ、星香、いま何読んでんの?面白い?」

「あっと、今読んでるのはね、平家物語」

私達は、名前を教え合った日から、毎日のように二人で隣り合って本のページを捲った。

いつの間にか、下の名前で呼び合うようになり、お互いが読んでいる本の感想を言い合ったり、交換して読んだり、講義が終われば、此処で共に時間を過ごすことが、日課になっていた。
 
「それ面白い、面白くないってわかんの?……おもひいれず?めっちゃくちゃ読みづらそ」

ぷっと笑うと優くんは、ゲーテの本を、広げた。
「えっ……優くんゲーテ?私、哲学とか苦手だな。結局答えがないんだもん」

「答えがないからいいんだよ、なんでも」

優君は意地悪く、唇を持ち上げた。

優君に初めて会ったのは確か4月の終わり頃だった。いつの間にか季節は変わり、もう六月になっていた。

今年は梅雨入りが早く、窓からみえる、鮮やかなミモザは、小雨にその黄色の花を濡らしながら、私達の友情めいた仄かな恋のようでもある姿を見守ってくれているようだった。