「うそうそ、ごめん」

にこりと笑うと、彼は何事も無かったかのように、涼しげな顔でサンテグジュペリの本を広げた。

「……あの」

彼は視線だけ私に向けた。 

「どうして、此処なんですか?」

図書館には勿論読書スペースがある。広いし、他の参考文献や本も取りに行きやすい。

多分この椅子は、読書スペースに置ききれなかった行き場のない椅子を図書館の端に置いただけなんだと、私は認識していた。

「迷惑?」 

「あ、じゃなくて、不思議に思っただけで」

彼はふっと笑った。

「人見知りなんで一人が落ち着くの」

「え?」

だって矛盾してる。隣には私が居るのに。
 
「あの、その……」

「何?」

顔を赤くした私を不思議そうに彼が見ている。

「じゃあ、私が居て迷惑じゃないんですか?」

彼がプハッと笑った。

「後からきたの俺じゃん」

「あ、たしかに……」

思わず顔を見合わせて笑った。