流夜たちの育った、龍生の家である猫柳家があった場所は、比較的新しく山間に住み着いた人たちの村で、旧い家とは関わりがなかった。
そのために華取一族のことも流夜は知らなかった。
勿論、影小路という家とも縁はない。
在義なら繋がっていそうだけど……全の思うようにはならない人だ。
「そういえばお前、生徒とデキてたんだって?」
「………」
思わず冊子を取り落としてしまった。
足に当たった。地味に痛い。
それってまるっきり返事じゃないか。
「本当なのか? 誰だ? どんな子なんだ?」
「……なんであんたが興味津々なんだよ」
「興味あるよ。性別女性では斎月以外眼中になかったお前がまさか、なあ」
「斎月は性別男扱いだって言ってんだろ。女性として見たのはあいつだけ」
流夜がそう返すと、全は哀れなものを見る瞳で見て来た。
「お前……教師辞めて正解だな。そこまで骨抜きにされてたんじゃ、すぐにバレて懲戒コースだぞ。あの鉄面皮がなあ。なんだ? もう結婚するのか?」
「………」
いい加減うざくなってきた。話変えよう。
「……あんたさ、うちの事件、どこまで知ってる?」
「神宮家のか? 報道くらいでしか知らないけど? ――解決する気になったのか?」
流夜は特に何を見るでもなく、窓の外へ視線をやった。
「……美流子は、もう死んでた」
「……知らない情報だな。どの筋だ?」
「……そんで、美流子を攫ったヤツに、あって来た」
「……お前本当、俺を無視して話すよな。……会って来た? って、見つけ出したのか?」
「いや、在義さんが。……在義さん、そいつのこと、前から知ってたのかな……」
全は、組んでいた足を解いた。