全は十三が在校生だった頃――流夜たちは中学生だった頃――は、理事のひとりに過ぎなかった。

それから流夜も関知していない間に理事長になっていた。

クーデターでも起こしたのだろう。

全は来客用のソファに陣取っている。

室内のレイアウトは元々あったものをそのまま使っていて、流夜は特にいじってはいない。

本棚がたくさんあるのはよきだった。

「つーか天科サン、在義さんに面倒頼むなよ。天龍絡みだし」

「……どれだ?」

「………」

忙殺というか、謀殺されそうだな。

在義を慕う人たちから。

全は困ったように眉根を寄せる。

「華取翁(かとりおう)なら万事解決してくれるから、つい頼んでしまって……」

「……同年代を翁(おきな)呼ばわりするなよ」

流夜は全を睥睨する。

在義側の流夜は、思わずため息を吐いた。

ちなみに二人とも四十代だ。

在義の方が年上ではあるけど。

翁ってじいさんって意味だからな? 

在義を知っていても、在義側ではない十三桜はこういう注意はしないから、自分がしておかないと。

「華取翁は風格ありすぎて、年齢とか超越してるだろ」

「………」

否定出来ない。が、咲桜の存在を知った今なら否定出来る。

流夜も、在義を隙のない人物のように思っていたが、こと娘のこととなると蒼い顔も紫色の顔もする。

咲桜のおかげで表情豊かだ。

……………。

「あ」

「なんだ?」

「……なんでもない」

今思い至ったが、流夜も咲桜と出逢ってから同じようなことを言われるようになった。

『流夜の無表情以外のカオ、初めて見た』。

つまり咲桜はそういう変化を起こさせる存在だということか。

「………」

なんか、特別性が増した。

ふっと唇の端に笑みが浮かぶ。

全に背を向けているから、そんな隙は見させないけど。