「キレ……?」

「うん。『何さらしてんだあの人はー!』って怒ってた」

「………」

流夜、蒼白。

ま、まさかそこまで嫌われ……やばい、哀しすぎて死にそう。

「『こういうの選んでくれるなら一緒に顔見せろよ!』とね。いやー咲桜の言葉がどんどんドンドン悪くなっていくよ。君のおかげで」

在義は笑顔。

流夜は死相。

……逢いたいのはこっちだって同じだ。

「咲桜を夜々ちゃん以上に淑やかに育てたかった箏子先生からしたら流夜くん、抹殺対象だからね。君が自分にかけた制約が終わったときは覚悟した方がいいよ」

「………」

それって命の終わりの覚悟だろうか。怖くて訊けない。

在義は瞼を伏せ気味に続けた。

「本当に君のおかげで――DNA片が摑めそうだよ」

「………。――それは、うちのですか?」

「そうだよ。神宮家から採取されたものと一致する青年が見つかった。君が事を大きくしてくれたおかげだ。……私の管轄ではないが、訊くか?」

「はい」

決めたのだ。どんな結果であろうと、真っ新になるまで解き挙げる。

在義は懐から手帳を取り出した。

警察手帳ではない、在義個人のもの。

「青年は現在入院中。意識不明の状態で数年を過ごしている。青年の家族や知人が病院に来たことはなく、また連絡があったこともない。青年は暴行事件の被害者。加害者は現在も捜査中だが、ある程度は絞られている。その容疑者が割れて、青年の正体もはっきりしつつある。青年と容疑者は中学時代の同級生だ。その線から青年の身元の特定が進められている。が、親族は、青年は勝手に家出をして以降連絡を取ったこともない。絶縁状態だ、と言うことらしい。青年のもとへ見舞に行く気もないそうだ。――もうわかったよね?」

在義は手帳を閉じて机に置いた。