「……あなたも……警察の……?」
「この件の担当どころか、管轄も違う県警だ。ここに来たのは、君に言って置かねばならないことがあるからだ」
……ああ、そちらか。
流夜は瞼をおろした。
「俺の妻と娘に関して、君に言を赦しはしない。桃を自分の女(ひと)だと言ってみろ。すぐさま首を折ってやる」
ねめつけて、在義は身を翻した。
……在義が誰のことを指したのか、そしてその存在があることを伝えたか……彼は少ししてから大きく瞬いた。
残された流夜は、取りあえず彼を見つめた。
在義は彼に対して、私人の立場を貫く気だ。
「……君は……? さっきの方の部下か、なにかですか……?」
問われて、流夜は瞼をおろした。
「俺は……神宮流夜といいます。さっきの方の――在義さんの娘さんの、婚約者です」
彼は、やはり驚いたように大きく目を開いた。
苗字だけでも、推察はつくだろう。
「俺からあなたに言うこともありません。あなたから訊かれることも、一つもありません。し、教えもしません。あなたが受けるべきが罰だけとは思いませんが、赦されることもないと考えます。――金輪際、俺も在義さんも、俺の周りの誰ひとりとして、あなたに関わることはない」
「あの子は」
遮るように、彼は口を開いた。
「あの子は、幸せですか?」
「………」
「ちゃんと、笑っていますか? 俺が……止められなかった、所為で……あの子を辛い目に、遭わせてしまった……」
「………」
「普通の人生に、戻れるチャンスは、あったかもしれない……。でも、そちらに背中を、押してやれなかった……。あの子を手放すのが、惜しいと思ってしまった……」
「………」
「すみません……。あなたも、非道い目にあわせてしまって……。ただ、最後に、あの子だけは逃がせたか……知りたい」