「なんて?」

「そろそろ、人間になれって。じゃなきゃ咲桜はやれないって言われた」

「人間? 在義さんらしい表現だね」

「痛みと敗北と……焦燥と羨望を知れって」

「ふうん? 焦燥と羨望なら今日クリアしたんじゃない?」

「……は?」

「今日、咲桜が僕のことを彼女とか言って焦ったろ? 咲桜に男たちが寄ったときも。それに、堂々と咲桜を誘える僕に憧れ、持たなかった?」

「え……」

「あ、感覚はあるけど名前がわからない感じ?」

からかう瞳の吹雪に、流夜は胡乱な眼差しを向けた。

「……お前、咲桜のこと呼び捨てにしてたっけ?」

「そこなの? この咲桜アホめ。別に親友のことどう呼ぼうと僕の勝手じゃん」

「……親友? ……やめてくれ、お前が相手だとものすごくどす黒い気配しかしない」

「友達になってもいいって言ったのついさっきだろ。ちなみに僕のことは「ふゆちゃん」だって。可愛いねー」

「女子同士の親友じゃねえか」

「なんだって?」

「何でもない」

ぽつりとした嫌味を、流夜は即座に撤回した。

吹雪相手に容姿をいじってはいけない。

「……愛子は、未だに事件のこと吹っ切れないのか?」

「吹っ切れてるよ。って言うか、お前とマナちゃんは違う。マナちゃんの両親を殺した犯人は事件後逮捕されて、死刑が執行されている。つまり――マナちゃんには復讐する相手がもういない。吹っ切るとか、そういう次元の話じゃないだろ。お前と一緒にするな」

愛子の両親であり吹雪の祖父母である二人の凄惨な最期は、吹雪も両親から聞いたものではなかった。

正直、吹雪自身も事件の概要すら他人には話したくない。あまりに残酷すぎて。

……親友と言える咲桜にも、話したくはない。