「言ったろ。お前の好意は見え透いてるって。……簡単に解決出来る言葉、やろうか」
「解決? 咲桜ちゃんに二股許すとか?」
「勘違いだ」
同時に吹雪の椅子に蹴りが入った。
「お前の咲桜への好意は、勘違いだ」
「………」
「咲桜は、ある一定の人種にだけ強力な引力を持ってるんだよ。お前はその人種で、今日引力に引かれてしまった。松生や日義のように。だから、お前が咲桜に持ってる感情は恋愛感情じゃない。ただの勘違い、あるいは友情の始まり。そんなとこだ」
「………非人道なくらいバッサリだね。さすがに僕も呆れる惚れこみ具合だよ」
そうか、そう言い切れるくらい惚れ込んでいないと、あの子は駄目なのか、と考える。
今日のナンパ男たちも、吹雪がいつもの手で追い払おうとした。ら、先に咲桜が吹雪の方を抱き寄せてきたのだ。
そして『この子の貴重な時間譲れませんよ』とか言った。年下の咲桜に『この子』扱いされたのとか、『彼女』と女扱いされたのとか、色々びっくりして固まってしまった。
吹雪も咲桜のことは、大人しい部類に見ていたから(『流夜の傍にいる女子』という比較対象に唯一なる斎月は、滅法滅茶苦茶な性格と行動力なので、咲桜程度は大人しい部類になってしまう)、ナンパ男たちが去って数秒してからはっと意識を取り戻したくらいだ。
ギリギリ音が鳴りそうな緩慢な動作で咲桜を見ると、顔の前で両手を合わせていた。
『さ、咲桜ちゃん……?』
『すみませんー。この前吹雪さんに助けてもらったから、今度は私がと思いまして』
『……僕って咲桜ちゃんの彼女だったの……?』
『えーと、どうあっても吹雪さんを彼氏扱いしては駄目だったので……矜持を傷つけてしまったらごめんなさい』
深く頭を下げられた。
そういう理由で『彼女』って言ったのか……。
複雑だ。
「お前を潰すのは面倒そうだ。咲桜とは友達になってもすきになるな」
「……そういうのさ、いくら幼馴染の友達でも言わなくない? 非道すぎない?」
「あ?」
睨まれた。
本気でご立腹のようだ。
「そんなに逢いたいんなら、さっさと逢いに行きなよ。流夜はもう教師辞めたんだしさ」