生家など、憶えてはいなかった。

空地になったその前に立って、流夜はやはり、特に思うことがない自分に嫌気が差した。

未解決事件の現場。

一軒の家があったらしいそこは、しかし残骸も残らず草原になっていた。

親戚が後片付けをしたのだろうか。

「うーん? 憶えてるわけもないか……」

ここに来たのは、初めてだった。

ひとまず生家に行ってみるか……と思い立ったものの、収穫ねえな、これは。

と、切りをつけたとき、携帯電話が着信を告げた。

「……ん?」

降渡から、ヘンな文面が届いていた。



「お、りゅうー!」

「どうしたよ。吹雪になんかあったのか?」

降渡からのいきなりの呼び出しに、流夜は急いで地元へ戻った。

『ふゆが大変。すぐ来て』というメールを受け取ってしまったので。

降渡が呼んだのは繁華街の中の喫茶店だった。

「あそこ、見えるだろ?」

「ん?」

降渡は自分の向かいの席に流夜を呼んでから、道路を挟んだ反対側のカフェテラスを示した。

流夜は席につく。と同時に頭に一撃を喰らったみたいな衝撃を受けた。

「あそこで、ふゆと咲桜ちゃんがデート中」

「はあ⁉」

デート⁉ しかも、咲桜が吹雪と⁉

素っ頓狂な声をあげた流夜に、周囲の客が怪訝そうな目で見てくる。

降渡が軽く会釈して謝った。