咲桜の出生を知ったときも、思ったのは咲桜が傷ついているのが自分には痛い、だった。
咲桜にしか感情が動かない、とはよく言ったものだ。
聞こえだけはいいだろうか。
自分の家族を壊したかもしれない奴なのに。
ただ、人形でも横たわっている感じしか、しない。
嫌悪感を覚えるのは、ベッドの上の人影ではなく、痛みを感じない自分自身にだ。
こんなんで咲桜の……流夜のために自身の心さえ壊れろと願った咲桜の、隣を赦されるのだろうか。
「……このまま目覚めないだろうか」
「え? ……回復の見込みは、あるんですか?」
「医学を理屈だけじゃないだろう。……目覚めてくれたら、思いっきり罵倒出来るのに、と悔しいよ」
罵倒。
そうか、彼は責められるべきなのか。
「……流夜くん」
「はい?」
「君と斎月くんには言おうと思っていたことがある。――斎月くんは、もうそれを迎えているが」
「……何です?」
「いい機会だ。君もそろそろ人間になりなさい」
「……は? 俺は人間なつもりですが?」
「痛みと敗北。焦燥と羨望。……君と斎月くんに足りない、人間らしさだ。斎月くんはご実家の件でそれを覚えたようだから、あとは君だけだ。……こんなときに言うのも難だが、これを機に、君はそれを得なさい。自分のために涙を流せない奴に娘を預けられるほど、俺も人間捨てていないんでね」
在義は一度も流夜を見ずに、そう言い切った。
流夜の胸はその言葉に衝かれていた。
……自分のために泣いたことなど、なかった。