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「この先」
訪(おと)なうことは龍生にも報告した上で、流夜は在義に同行していた。
今日、この病院を訪れること、降渡と吹雪は知っている。
後から探られるのも嫌だし、二人を経由して咲桜の耳に入るのも嫌だった。
話すなら、自分から。
そう思って、事前に話しておいた。
降渡から、かなり強めに背中を叩かれた。
吹雪には、「そう。頑張れ」と言われた。
吹雪に応援されるなんて、自分はそんな危うい顔でもしていたのか。
ちらっと、先を歩く在義を見る。
「あ、在義さん?」
「なんだ?」
「あの……怒ってます?」
「……は?」
ものすごく胡乱、かつ挑発的な瞳で睨まれた。
完全に怒っていらっしゃる。やばい。逃げたい。在義から。
「怒ってないわけないだろう。ここに来るといつもイライラするよ」
「そ、そうですか……。すみません、俺が頼んでしまったから――」
「言って置くが」
在義は足を停めて振り返った。
完全に、『公人としての華取在義』の顔。
――そして、『華取在義個人』の瞳で流夜を見る。
うわあ……一番キケンな時の在義に逢ってしまった……。
流夜、本気で逃げ出したくなった。
このカオと瞳が苦手なのは弟も一緒だった。
「今の君に、私は被害者遺族という立ち位置を強いるしかない。しかし、本来なら許されない場所まで君を導いているのは、君が『私』の娘の婚約者だったからだ」
「……どちらでいるかを、選べと?」
「後者であることを心掛けなさい。……君には少し大変な場所になるだろう」
「………」
『彼女』を、華取桃子としてしか見るな、と。
大変であることは、承知の上だ。