彼女はいったいどんな夢を見ていたのだろう、と死の直前の彼女を思い出しては、たびたび僕は考える。


彼女を救えなかった僕を、きっととても恨んでいただろうから。
僕は酷く嫌なやつとして彼女の夢に登場したのではないだろうか。


そう思いながらも微かな違和感が首をもたげる。


心電図のモニター波形が徐々に遅くなり、死へのそれに近くなっていることに気づき、あの日当直していた僕は真田夏菜子のいる角部屋へ向かったのだ。


病室に入ると、月明かりに照らされて見事な銀杏の木が窓の外に浮かび上がっているのが見えた。


それに照り返されるようにして、彼女もまた病室の中で揺蕩うように浮かび上がる。


死の直前だというのに、おもむろに瞳を開いている。僕は久しぶりに彼女と目が合った。その瞬間、不思議そうに彼女の目が丸くなり、なんだか笑いでもするように、くしゃりと顔が歪んですぐに咽せていた。


駆け寄ると、彼女は「南さん、元気になったの?」とまるで願うように僕に尋ねた。


一瞬何を問われているのか分からなかった。
けれどすぐに気付く。
彼女はまだ、夢の途中にいるのだ。


夢の中で僕はきっと彼女の患者だったのだ。


「ええ、貴女のおかげで元気になりました」


そう言ってから、少し言葉が物足りない気がして、彼女の目指していた職業に自分はなって今は働いてる旨を話す。


すると彼女は、良かった、と心底安心したように笑うのだ。