夢を見ていた。
昏く青いその部屋のことは、よく知っていた。


窓から月の光が差し込む。
隔てられた窓の向こうに見える、柔い光に照らされて浮かび上がる見事な銀杏の木。
まだ、朝に沈む前の、海の底みたいな静寂。
モニターの単調な機械音には、その静寂を破る力は無い。


全て、肌馴染みが良かった。まるでずっとここにいたみたいだ。


腕には2本の管、首にも1本、管が入っていた。
その先に繋がるのは、私を生かすための魔法のような栄養が入っているという水。
大事だから抜くな、と何度も言われた。


指を動かそうとして、けれどピクリとも動かなくてもどかしい。
呼吸も苦しい。
けれど不思議と満足げな心地がした。


もしかしたら、私は南さんと入れ替わったのかもしれない。
だとしたら良かった。
私は私の罪を償える。


そんなことを考えて、バカみたいだと思った。
きっと私はカルテの前で寝てしまったのだ。南さんのことを考えすぎて、こんな夢を見ている。


扉の開く音がして、真夜中だと言うのに誰かが病室に入ってくる。


そちらに視線を向けると、月明かりに照らされて、白衣を着た南さんが私に近づいてくるのが見えた。
全然、白衣が似合っていない。


その姿が面白くて、はは、と笑おうとして、声が掠れきっていることに気づく。
反動で少し咽せて、白衣を着た南さんが驚いて私に駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか」

「……大丈夫」


そうしてもう一度、まじまじと彼を見上げた。