救護室に迎えに来てくれたカルマさんと共に、寮の方へと歩いていく。
時刻は十六時近く。
もう春だというのに、まだまだ肌寒い。
髪が耳元でカットされている長さなので首元が寒くないかと若干心配になったが、私服に着替えたカルマさんはちゃんとマフラーを巻いていた。
その姿でいると、普通の可愛い、ワンコ系の後輩キャラみたいである(年齢的には先輩だけど)。
「鑑定結果が出るのは二日後だけど……、まぁ、流石にランクは上がるんじゃないかな?」
「どうでしょうね……? 俺、ほとんど何もしてないですし」
せいぜい魔力球を放っただけだ。
それも、無くても問題は無かっただろうし。
しかしそんな俺の発言に対し、カルマさんは「それは違うよー」と言葉を飛ばした。
「役に立ってないように見えても、パーティでいてくれることに重要性があるんだよ!」
「そうなんですか?」
「もちろん!」
太陽のような笑顔がこちらへ放たれる。
直接見るのはまぶしすぎた。
「例えば、サッカーのゴール前。毎回ボクが華麗にゴールを決めてるかのように思われるけど、そうじゃないときも当然あった。
他のメンバーがディフェンスを引き付けてくれているから。一瞬でも自分がシュートを打つと見せかけてくれるから、ボクへのマークが甘くなるんだ」
「ふむふむ」
「例えば、スケルトンが強襲をかけようとしたとき。
そのターゲットが一瞬でもキミに向いていたら、それはもう仕事をしたことになってるのさ。本人が意図した、しないに、かかわらずね」
「なるほど」
こちらへモンスターの意識が向いているからこそ、カルマさんは自由に動ける。
少なくともその一瞬だけは、攻撃されることが無い。
だから、思い切った行動に移ることが出来て――――勝利を狙えたと。
「まぁ高校一年のときは、既にボクは超プロ級だったから、一人で何人も抜いてたんだけど」
「さっきのセリフの意味」
「でもそしたらさ。ボクにディフェンスが全員寄ってきて、他の選手がフリーになるでしょ? それもチームプレーだよ」
「おぉ、スポーツマンっぽい」
「そう言えばチームメイトに、『一人で何人も抜く』って言わない方がいいよ。ビッチみたいだから……って言われたんだよね」
「うわ、スポーツマンじゃなくなった」
というかチームメイトの人ひでえ。
そしてその発言は、全てのスポーツ選手に失礼になるから謝った方がいい。
「よく分からないけど、ごめんなさい?」
「とりあえず俺は許します……」
とまぁ。
こんな許されざる会話をしつつも、俺たちはようやく学園の寮まで戻ってきた。
「結局ソレ、すぐには治らなかったねぇ」
「そうですね……」
現在俺の両腕は、包帯でぐるぐる巻きになっている。
指一本動かせない状態だ。
「治るまでは、この状態回復効果のある特殊包帯を巻き続けなかければならない、と……」
「今日の夜だけ?」
「ですね。まぁ、思ったより早くて助かりました」
そんなわけで。実は現在、俺の荷物はカルマさんが運んでくれていたりする。
男子寮と女子寮は別方面なので申し訳なかったのだが、彼女が妙に嬉しそうに、「パーティだからね!」と言うので、お言葉に甘えることにした。
ワンコ化が進んでいる。可愛げポイント、プラスワン。
「ありがとうございましたカルマさん」
部屋の前に到着したので、俺はぺこりと頭を下げる。
「いやいやなんの!
パーティメンバーである、ボクのせいでもあるからねー!」
言って、彼女はばたんと扉を閉めた。
「さて……、何にせよこれからの生活が大変だなぁ」
数日だけとはいえ、両手が使えないとなると不便極まりないだろう。
「まずは風呂……、どうするかな」
「まずはお風呂だね? お任せ!」
「おわっ!?」
呟きに対して、後ろから見知った声が聞こえた。
見知ったというか、さっきまで聞いてた声だった。というかカルマさんだった。
「カ、カルマさん!? なんでここに!?」
「なんでって、部屋まで送ったじゃん」
「そうじゃなくて、どうして部屋の中に!?」
「なるほど? いいタマ? キミは今まで知らなかったのかもしれないけど、アレはドアっていうものでね。あの外側が部屋の外。それより内側が部屋の中って言う概念で人間は生活しているんだよ! 不思議だね!」
「そうじゃねえ! そして不思議でもねえ!
どうして俺の部屋の中に入って来てるんだって聞いてんの!」
「キミのその、余裕無くなってため口になるところ、割と好きなんだよねボク」
言ってあははと笑う闖入者。
やめろ。まるで自分の家みたいに、部屋の冷蔵庫を開けないでください……。
「お、ちゃんと麦茶とか作るんだね~。はい」
「あぁこれはどうも。……って、そうじゃねえ!」
あまりにもナチュラルに麦茶のボトルを出し、平然と棚のコップを使うものだから、つい流れで普通に受け取ってしまった。
気が利くのか、ストローまで刺してくれている。
丁度食器を洗っていて良かった。使えるコップがゼロだったら、直で口の中に流し込まれていたかもしれない。
「あの……。どうして俺の部屋に上がってるんです?
俺と、俺の荷物を送り届ける任務は、完了したはずでは?」
「あはは! そんなの決まってるよー」
笑いながら椅子に座り、綺麗にかっこよく足を組んで。
彼女ははっきりと言った。
「ボクのせいでもあるって言ったじゃない」
「えっ」
「だから、お世話するよ!」
「えっ」
「パーティだからね!」
あの凶悪なダンジョンの中でも無かっためまいに。
俺は今ここで、初めて苛まれた。