罠の王・トゥトゥリアスの放つ矢は超高速で。
 弓に番えてさえいないのに、その射出速度は埒外である。
 射られたら最後。その軌道上に立っていた場合、常人には避けることすらままならない。
 無傷でいることなど出来やしないだろう。

 けれど――――ここは例外の見本市。
 ニンゲンの中でも例外的な力を備えた、元・アスリートたちが住まう魔都である。

「フッ!」

 トゥトゥリアスはその美しい腕で号令を出し、宙に舞う屋の一本を投擲する。
 しかしターゲットとなった速力の魔人・騎馬崎 駆馬は、高速を超えた身のこなしでその場から姿を消す。

「なっ!?」
「遅いね」

 号令を出した腕へと、豪快に放たれるカルマさんの白い足(シンデレラ)
 腕自体は胴から離れなかったものの、相当なダメージを与えたようだった。

「ぐっ……!?」
「おっと、意外に頑丈だね」

 確かに驚きの防御力だ。
 凶悪なデーモンの腕すらも吹っ飛ばした白い足(シンデレラ)に、あの体形で耐えるとは。
 見た目ほどに柔ではないということか。

「ワ。ワタクシはこのダンジョンと同化する者! なめないでくださいまし……!」
「――――なるほど」
「っ!?」

 トゥトゥリアスが再び矢を展開した直後だった。
 背後より、今度は対応力の達人・捻百舌鳥 逆示が忍び寄る。

「では、ダンジョンの壁を破壊するほどの貫通力なら、どうかしら?」
「な――――」

 そしてその行動を予期していた俺は。
 とっくにすめしの胸元へと、魔力球(ボール)の提供を完了させていた。

「最高のタイミングね、タマ」
「くっ!」
「はぁッ!」

 放たれるすめしの打球。
 穿たれるトゥトゥリアスの腹部。
 身体の中心部分に穴を開けられた彼女は、苦悶の表情で後退る。

「がっ! な、ならば――――!」

 黄金嬢は吐血しながらも、両腕をダンジョンの床にとぷん(・・・)と浸け、魔力エネルギーを送っていく。

「現れなさい! ダンジョンドラゴン!」

 正面にクレーン車のような、超大型の物体が現れる。
 岩のような外皮ががぱりと開かれ、そこには不揃いで獰猛な牙が見えた。
 顔だけでも二メートルはある、ダンジョンそのもので構成された巨大なドラゴンだった。

「GLHHHhhhhhhrrrrr!!」

 こちらをまとめて噛み砕く、凶顎(きょうがく)が迫り来る。
 しかしそこに立ちふさがったのは、力の超人・鯨伏 るいだ。
 ダンジョン内の魔力を吸い、常人以上の力へと引き上げられた彼女の怪力は、もはや一つの必殺スキルだ。

「やぁああああああああっっ!」

 るいちゃんの両腕は、真正面から竜の(あぎと)を受け止めた。
 上下から迫る顎の力に、まったく力負けしていない。
 そしてそのまま掌から二種類の魔力を放出し、巨竜へと反撃を行った。

「GHHhhhh――――ッッ!!」
「やりました! 今です!」
「はぁぁぁぁあっ!」
「おおおおおっっ!」

 カルマさんとすめしへ、魔法球を提供する。
 それぞれのベストフォームで打ち出されたソレらは、ダンジョンドラゴンごとトゥトゥリアスを吹き飛ばした。

「ぐぅぅぅぅッッッ!!? こ、こんな……!」

 しかし敵も只者ではない。
 自分の攻撃をここまで受け切られたのだ。普通なら困惑が勝ちそうだが、その顔には怒りを張り付けていた。
 まだ、闘志は折れていない。

「これ……がッ! 最終手段ですわあああああああッッ!」
「……ッ! これは!」
「みんな、こっちに!」

 トゥトゥリアスはその体を、黄金に発光させる。
 魔力は膨らみに膨らみ、この部屋自体に魔力を行きわたらせているようだ。

「神も屈したこの槍の威力……、とくと味わわせて差し上げます!」
「……ッ!」

 彼女の号令の下。
 トゥトゥリアスの後方の壁が、巨大な槍のような形状となり、こちらへ向いた。
 古代兵器のバリスタのようだ。
 あれをまともに食らったら、身体に穴が開くだけではなく、存在まで消滅してしまうだろう。

「つぶれて――――おしまいなさいッッッ!」

 魔力溢れる(やり)が穿たれる。
 黄色の螺旋は容赦なく、否応なしに、俺たちを貫くだろう。
 だから――――

「タマッ!」
「おぉぉぉぉ―――――防御上昇(ハーデン)ッッ!」

 最後は。
 読みだけが取り柄の―――――凡人。
 月見 球太郎の、防御スキルである。
 貯えに蓄えた魔力は、腕先から、指先から放出され、黄金の壁を受け止める。

「これは……、タマの、元々のスキル……!?」
「すごいです~……」
「――――タマ、」


 あの日。
 教官を救った、春先の事。

 俺は彼に、上級魔法を教わりにいっていた。
 約束通り彼は色々と(秘密裏に)教えてくれたけれど、やっぱり俺にはセンスがないようで。結局一つも身につかなかった。
 けれど、失敗続きの中。
 一つだけ有用なことがあったのだ。

『自身のスキルが変化した?』
『そうなんですよね』
『それ、たぶん元に戻せると思うよ』
『え!?』

 教官曰く。
 俺の防御上昇(ハーデン)は、ボール出しというスキルに変化したのではなく。
 一時的に奥に引っ込んでいるような状態なのだそうだ。

『魔力は身体の作りに合わせて流れていくものだ。だから、出ないってことはない。
 もしも出ないのであれば、単純にそこに蓋がされてるだけなのさ』
『蓋……』
『もしかしたら新スキルのせいかもしれないし、心情的なものかもしれない。それが何なのかは分からないが――――』
『はい! 探っていきたいです!』
『よし。ならまずは、この魔法を覚えてみようか』
『この魔法は……?』
『これは、魔力の残骸を回収し、自分のものにするための魔法だよ』
魔力回収(コルクト)……』
『本来なら上位ランクの者しか教われない魔法さ。
 ただ、なんとなくきみ、素質ありそうでね』
『そうなんですか?』
『きみの蓋を壊すには、おそらく自身の魔力だけでなく、別の強大な魔力の後押しが必要になってくる。だから、ダンジョン内に魔力が回収できそうな物質(モノ)があれば、拾っておくといい』
『はぁ……。例えば、罠の残骸とか?』
『お、それいいと思うよ』
『何にせよ、俺の魔力とため込んだ魔力を使えば、防御上昇(ハーデン)は戻るかもしれないと』
『まぁ試しだ。まずは、魔力回収(コルクト)を覚えてみようじゃないか』
『はい。お願いします!』


 まぁそんな。
 何に役に立つのか分からない、日常的な会話があって。
 俺はこうして、原点ともいえるスキルを思い出すことが出来て。

「ぐっ……、おぉぉおおおおおッッ!」
「なっ! き、きさまァァァッ……!」

 互いの歯ぎしりが響く。
 どちらが打ち勝つかの、最後のせめぎ合いだ。
 魔法の光は目に痛い。
 もうどんな色に光っているのか、判断がつかないほどに眩かった。

「……なんなんですの!?」

 並みの冒険者であれば。一掃されていただろう。
 しかし。
 正面衝突も、搦手も、打ち負ける。捌かれ続ける。

「なんなんですの! 一体きさまは何者なんですのッ!?」
「俺……、か……?」

 投げられた問いに。
 返す答えは決まっている。
 おそらく。
 騎馬崎 駆馬と出会った、そのときから。とっくに。

「月見 球太郎。
 落ちこぼれで、才能がなくて、悪評がつきまとっていて、」

 あがいて、もがいて。それでも叩かれて。
 でも、諦めなくて。人の縁に助けられて。
 這ってでも前に進んだ――――


「このパーティの、ボール出し係だッ!」


 防御上昇(ハーデン)は。
 しだいに丸みを帯びていき。
 まるで一つのボールみたいになる。

「おぉぉぉッ!」
「――――なっ!?」

 最初の頃にの、自分のことを何も分かっていないときの。
 カルマさんへ、とりあえずで投げていた、大玉転がしのような魔法球。

「みんな!」
「うん!「えぇ!」「はい!」

 そして。
 衝突する光の中、反撃は完了する。

 カルマさんのキック。
 すめしのショット。
 るいちゃんのスパイク。
 その全ての力を内包した魔法球は、迫り来るダンジョン壁をもろとも押し返し――――

「ガァァァァッ――――ァ――――ッ――――…………」

 黄金の罠姫。
 トゥトゥリアスを、完全に吹き飛ばしたのだった。




 収束した光の中。
 息を整えつつ、俺はぼうっと眼前を見る。

 まったく。
 惨敗だ。
 やっぱり最後は天才たちが決めるんだから。

 まだまだ凡人程度では、才気あふれる元・アスリート女子たちには。
 敵いそうにない。

 だから支えてもらわないとな。
 これからも、ずっと。