トラップを感知して、先へと進む。
――――もちろん解除した魔力に、手で触れるのを忘れない。
「タマー? 何してるの、行くよー?」
「あ、はいー! すぐ行きます!」
一応奥の手として、備えておかないとな……。
みんなにこれを話していないのは、ぶっちゃけこの行為が、不確定要素だからだ。
「教えてもらった通り、出来ればいいけど……」
そう呟きつつ、再び罠を予想する。
そして通路にて二つ罠を解除して大部屋に入った直後だった。
「ぐぅぅぅ~~~~~ッッ! 先ほどから邪魔ばかり! もう――――我慢なりませんわッ!!」
突如として。
部屋の中央の空間に、『亀裂』が入る。
「……っ!?」
邪悪さの中にも高貴さを思わせる声と共に、ソレは姿をあらわした。
全員一気に警戒態勢に入り、眼前の影を見やる。
「お前、が……!」
それはまさしく。
このダンジョンの主であろう。
これまで聞こえていた声と、ぴたりとイメージが合致した。
すらりとした体型。立ち姿捺してはすめしと似ているが、足をクロスさせていたり、手を優雅に組んでいたりと、所作に優雅さを秘めている。
百七十センチほどの身長だからか、怒りの視線がまっすぐに飛んできていた。
黄金のストレートロングの髪に、同じく金色の瞳。
色白な肌は怒りのせいか魔力のせいか、やや淡く発光しているようにも見えた。
薄淡いドレスをまとった美女は。
あまりにも不釣り合いな暴言を、美しき声と美しき発音で言い放った。
「この――――イカレ〇〇〇野郎め! そのつっかえねー一本鎗を叩き折りますわよッッ!!」
「え、えぇ~……」
月見 球太郎の周り、〇〇〇を躊躇せず言える女性多すぎ問題。
「失礼な! タマの〇〇〇は使えるよ! 立派だったよ!」
「私もそう伝え聞いているわ! 彼の〇〇〇は、カチカチで、平均くらいには立派だったと!」
「わっ、わたしは知りませんけれど、タマせんぱいのお〇ん〇んは、きっと硬そうな気がします……!」
「お前らちょっとは羞恥心を持とう!?」
このダンジョンのラスボス(?)を前にして、何とも緊張感のない我らがパーティだった。
気を取り直して俺は、眼前に突如として現れた彼女を睨む。
「と――――とにかく!
お前の目的はなんだ!? どうして俺たちをトラップまみれにしようとする!?」
困惑しながら俺が言うと、黄金の女は怒りの顔のまま言った。
「それは……、そこの女を支配するためですわ!」
「え、そこの……、おんな……?」
綺麗な指の先は。
騎馬崎 駆馬を指していた。
「……ん!? ボク!?」
「そうよ! あなたよ!」
この場にいるメンバーの誰よりも驚くカルマさん。
眼をぱちぱちさせる彼女へ謎のお嬢様風味美女は向き、綺麗な地声からは想像できないほどにドスのきいた声で言う。
「あなたを支配するために、わざわざワタクシはヒトの姿になったのですわよ!」
「はぁ~~~~~~っ!?」
「あの、縦横無尽にダンジョンを駆け、破壊と共に魔力をまき散らしていく艶姿! それはまさに麗しき獣! たまりませんでしたわ!」
「麗しいのも獣なのも、どっちもキミだと思うんだけど……」
「ってことはつまり……」
二ヵ月ほど前に俺を助けたカルマさんを見て、こいつは意志を持ったってことなのか……?
「同じ種族の姿で上に立つことで、徹頭徹尾分からせる! こんなにも完全なる支配はありませんわ!」
「そんな理由で……?」
「カルマせんぱいを支配するって、どういうコトなんです~……?」
すめしたちの疑問に彼女は「オホホ」とプチ高笑いをし、悦に入った。
「支配……、そう、支配です! ワタクシがあなたを支配し、身も心も、全てこのダンジョンの中で溶け合い、一つの意思になり生きていく……! アァッッ! 最ッ高ですわよ~~~~ッッ!!」
「言ってることがめっちゃ狂気的!?」
なんかとんでもないことを言っていた。
「なるほど~……。好きな人とどろどろに溶け合いたい気持ちは、分かるかもです……」
「くっ! 敵ながら素晴らしい思想を持っているわね……!」
「納得しかけちゃう理由だね……!」
「おうふwwwうちのパーティ、おかしいでござるwwwwwwwデュフwwwwww」
倒錯的なメンツしかいねえ。
何がどうしてこんな空間になってしまったのか。
頭を抱えていると。
ギャグの空気を終わらせると言わんばかりに、敵対する彼女の魔力が膨れ上がった。
「タマ、構えて!」
「え――――」
カルマさんからの注意と同時。
視線の先から一筋の光が飛来する。
「なっ……!」
俺の頬をチュン! とかすり壁へと突き刺さるソレは。
一本の神々しい弓矢だった。
そして。
その矢の鋭さに負けない声が。
俺たちに突き刺さる。
「――――ワタクシの名はトゥトゥリアス」
先ほどまでの馬鹿げた高笑いとは完全に別種の声質。
明らかに敵対の意志を示す音を持ってして。
彼女は名乗りを上げた。
「異界を作りし形天海と帯着土の狭間にて芽吹いた、意思を持つ罠」
紡がれる言葉と共に。
一つ。また一つと。彼女は自分の周囲に矢を召喚していく。
十本以上の鏃が舞い踊る中。
金の瞳の麗罠・トゥトゥリアスは、明確な敵意を持った後。
俺を――――俺たちを、正面から見据えた。
「神々の城を守りし数多の罠にて、貴様らに存在としての違いを教えて差し上げますわッッ!!」
戯れはここに終わり。
最後の激闘の幕が上がる。
俺は。
掌に魔力を込めた。