激闘の最中。
敵を一体蹴とばした後、カルマさんの声が俺に届く。
「タマ、ボールお願い!」
「分かりました!」
モンスターからターゲットにされないギリギリのポジショニングへと走り、掌に魔力を込めた。
「ふっ……!」
カルマさんのことを考えてボールを作る。
改めて――――彼女が蹴りやすいのは、サッカーボール大のものだ。
「カルマさん!」
「おっ……」
作成したボールを、掌から中空へと投げる。
一発で二十二センチ大の魔法球が出てきたことで、一瞬だけカルマさんは驚きの表情を見せた。
その後、再び戦いの顔へと戻り、ボールへ向かって大きなジャンプをして――――ジャンピングボレーを叩き込む。
「いっけぇッ!」
ジャストミートで打ち出されたボールは、モンスター集団の一角へと飛んで行き、着弾の後大きな爆発を見せた。
跡形も無く吹き飛んだモンスター群を確認した後、華麗に着地したカルマさんはガッツポーズを決める。
「よしっ!」
「うまくいきました」
「すごいね! どんどんサイズの精度が上がってるね!」
彼女ら一人一人を深く想うことで、自在に出せるようになったのだ。……変態チックだから言わないけど。
「じゃあもっとおっきいの欲しいって言っても良いんだね!」
「もっといっぱい出してって言ったら、それも可能なのね」
「ア、アツいのくださいって言ったら、出してくれますか……?」
「せっかく俺は言わずに我慢してたのに!」
台無しである。
全員口元を波打たせているのは、つまりそういうことである。
「というかお前ら、戦闘に集中しろ!」
多種多様なモンスターが蠢く中、断章に興じているわけにはいくまい。
「いいわタマ、今度はこっちに頂戴!」
「分かった!」
テニスボール大のものを作成し、すめしへと放る。
今の俺は、わざわざ彼女の正面に立たなくてもイメージが出来るようになった。
個人特訓のお陰である。
「フッ!」
放たれたフォアハンドストロークの打球は、そのまま大型モンスターを三体貫いていった。
「カルマよりは少なかったか……。でもまぁ、こんなものね」
剣をラケットのように扱いながら、彼女はこちらに視線を送った。
「ウィンブルドンの試合映像。その中の、『ボールボーイが選手にボールを投げて渡す部分』百選を見せた甲斐があったわ」
「……まぁ、役に立ちましたよ」
実際のところ。けっこう人によって違いがあったのだ。
なるほど距離があるからワンバウンドさせるのかとか、転がして渡したりもするんだなとか……挙げて行けばきりがないので割愛するけれど。
「タマせんぱい! 最後、こっちに!」
「るいちゃん! 了解だ!」
後方からるいちゃんの声が聞こえる。
彼女は現在、アタックをするために助走距離を確保していた。
「バレーボール大の球……っと!」
俺は彼女が飛び上がるところ目掛け、直径ニ十センチの魔法球を放り投げる。
「あっ……、タマせんぱい。さすがです……!」
「へへ」
助走する彼女が一瞬笑う。
その後、バンッ! という地面を蹴る音がする。
巨体は華麗に宙を舞う。
胸を突き出し腰を逸らせ、右手を大きく掲げた後――――その一撃は放たれる。
「いっ――――けぇッ!」
渾身のスパイク。
俺の魔法球、プラス、彼女が付与する属性魔法。
雷を帯びたバレーボール球は敵陣に直撃した後、広範囲へと拡散し、まとめて灰燼へと変えた。
「威力上がってたねるいちゃん!」
「は、はい!
……タマせんぱい、覚えててくれたんですね」
「うん。勿論」
この間るいちゃんに言われたことだ。
本来ならバレーボールは、二十一センチの5号球を使用する。
しかしるいちゃんがやっていた中学バレーまでは、一つサイズの小さい4号球(ニ十センチ)を使用するのだ。
微妙な差だが、そっちの方が撃ちやすいのだと彼女は言ってくれた。
「うまくできて良かったよ。
それに、るいちゃんへ上げるのは一番イメージつきやすいんだ」
何せ、同じ『手』を使ったボールの扱いだからだ。
バレーにおけるセッター(主にパス回しをする係)をイメージすればイイだけだから、とても簡単だった(他と比べればだけど)。
「ある意味一番相性いいかもしれないね、るいちゃん」
「えっ! わわっ! あ、ありがとうございましゅ……!」
巨体のままもじもじする姿は、何だか大型わんこみたいだ。
餌を与えてご褒美をあげたくなってくる。
「一番相性イイですってよ、カルマ?」
「あははははっ! ……ちょっとだけモヤるね」
なんか後方で太陽に曇りが現れていた。
さておき、一戦目は無事終了だ。
「それじゃあ改めて、先に進みましょうか――――」
再び足を踏み出そうとした瞬間だった。
ゴゴン! と、背後で大きな音が聞こえる。
「えっ!? き、来た道が……!」
見ると、俺たちが入ってきた入口が、完全に塞がってしまっていた。
ダンジョン内は暗くないため視界が塞がってしまうことは無いが、一抹の不安に駆られてしまう。
「はわわ……、もしかして、閉じ込められたんでしょうか……」
「も、もしかして、ヤバイ……?」
狼狽する俺とるいちゃんをよそに、カルマさんとすめしは余裕の立ち振る舞いを見せる。
「あはは大丈夫だよ。扉が閉まっちゃうのはよくあること」
「どうせそのうち上にいる人たちが、再び扉を開けてくれるわ。そうでないと、後続の冒険者たちも入れないものね」
「そ、そっか。なら安心ですね……」
るいちゃんに続き、俺もほっと溜息をつく。
しかし今度は、ブオン! と、魔法が起動するような音がした。
「あの、なんか……。扉のあった場所が、完全なる壁になってるんですけど……?」
「これは……、ねぇカルマ? これは大丈夫なの? 私は初めてのケースなんだけど? あ、初めてってそういうコトではないわよ? 異性とも同性ともそういうことはしてないというか、そういうことは一人で、」
「見るからに動揺するなすめし! そしてそのくだりは前にやった!」
しかも初対面時にな! 考えてみればお前けっこうなことやらかしてるな!
「あは、あはは、大丈夫だよ! 扉がなんかアレしちゃうのも、よくあること……かも、よ?」
「こっちはこっちで自信なさ気だ!」
そして極めつけに。
ザリザリと壊れたラジオみたいな音がして。
フロアに声が、響き渡った。
『――――いいですわよッ!』
高貴な声だ。
けれど、どこか力強さを感じる。
『やはり最高の強さですわ~~~~っ!』
「え、ちょっと……」
『なのであなた方はこの場所にて、ワタクシが徹底的に支配して差し上げますわよ~~~ッッ!』
「は――――」
『ホホッ! オホホッ! オ~ッホッホッホッホッホッホホホホゥ!』
「なんか最後ゴリラみたいにならなかった!?」
特殊な笑い声と共に、再びザリザリ音が流れる。
ぷつんという音がしたということは、通話(?)は終わったというコトだろう。
一瞬の静寂の後、俺はカルマさんへ視線をやった。
「………………これは?」
「うーん」
腕組みをしてやや考えた後。
彼女は「うん」と頷き、元気に答えた。
「閉じ込められたね!」
「やっぱりかぁぁぁぁぁッッ!?」
さてさて。
前途多難な冒険の、幕開けである。