流れるように受付を済ませ、俺たちパーティはダンジョン内へと入る。
入り口からすぐの部屋が、教室二つ分くらいの大部屋になっていた。
「あれ? 形状が変わってる」
「お、気づいたみたいだねー」
このダンジョンは、以前俺がカルマさんに助けてもらったダンジョンだった。
前は岩がごつごつしている、洞窟めいた場所だったのだが。現在は床・壁・天井全てにおいて、レンガ状のタイルで構成されている。
「前よりも歩きやすそうでいいですけど……、そもそも攻略されて無かったんですね」
ダンジョンは。発生と消滅を繰り返すものだ。
だから同じ場所に違うタイプのダンジョンが現れることも当然あるのだが……。
「どうやらクリア者は出ていないと」
「うん。登録名も同じく、『K-2966』のままだね」
余談だが。前は発生するたびにカッコイイ名前をつけまくっていたらしいのだが、あまりにも多く発生しすぎるためそれを断念。バリエーションが追い付かなかったらしい。
今はアルファベットと数字の羅列に落ち着いているのだとか。
「前はプロCランクだったのね。タマ、あなたもけっこう無茶なことするわね」
「ま、まぁ……。あのときは切羽詰まってて、視野が狭くなっていたというか」
ともかく。そんなプロCランクダンジョンは。
現在は観測結果が変わり、プロBランクにまで上がっている……と。
「計測結果が変わることは珍しくはないけれど……、クリア者が出ていないというのは変な話ね」
すめしは顎に手を当てて考える。
「たしかにそうですね……。
タマせんぱいが挑戦したのが四月の頭ごろ。そこから二ヵ月も経ってるんですから、ふつうはクリア者が出て、違うダンジョンが発生していてもおかしくないです……」
たいてい発生したダンジョンは、半月もあれば誰かが攻略する。
中には時々低ランクのものが攻略されずにいることもあるらしいが、そういう場合は上位ランクの冒険者に依頼し、攻略してもらうらしいのだ。
「ここもそういう依頼をしたらしいんだけどね。
でも、誰も攻略出来なかった」
「それは……、全員死んでるってことですか……?」
ごくりと唾を飲み込み、俺がカルマさんに聞くと。
しかし彼女は「いや」と、わりと軽めに否定する。
「モンスターのランク自体はそんなに大したことも無いらしい。けど、誰も『宝箱』を見つけられてないんだってさ」
「宝箱を……?」
ダンジョンの最奥には、『宝箱』なるものが設置されていて、その中に入っているアイテムに触れればダンジョンは消滅する。
一説にはこの、『宝箱』が自らを守るためにダンジョン現象を起こしているのではないかとも言われている。
つまりそれくらい、ダンジョンと宝箱は切って切れない関係だ。
ダンジョンの中には宝箱があるはずで。
そしてそれが無いのは、確かに異常だ。
「おそらく隠し部屋とかがあるんだろうけどねぇ。けど、名うての冒険者たちの悉くが探索に失敗してるんだよ? 絶対変だよねぇ」
「そうですね……」
「そうだよね! 変だよね!」
「楽しそうだなぁ!」
今日も騎馬崎 駆馬は絶好調だった。
この挑戦ジャンキーめ。
得意スポーツはサッカーじゃなくて、ハードル走だったんじゃないのか?
そうこうしていると、すめしは「ねぇ」と俺の肩を叩く。
「あそこに見える装置。分かる?」
「ん? ……あれは、」
彼女の示す方向を見やると……、確かに、一ヵ所だけブロックがぽこんと飛び出ている。
「トラップだな」
「そうよね?」
目で見る限り、先へ続く通路はあの一本しかない。
解除せずにあの通路を進んだら、起動してたってことか……。
「び、微妙な変化なのに、よく気づきましたねすめしせんぱい……」
「まぁ観察するのは得意だからね」
「というかそういうのって、斥候職であるカルマさんの仕事なのでは……」
「あははははは! 今更だね!」
楽しそうである。
まぁこれまでのダンジョンでも、カルマさんが先にトラップに気づいたことなどほとんど無かった。
そういうのに鈍感そうなるいちゃんの方が、先に気づいたこともあった。
「でも解除は出来るからね! まかせて!」
ててっとトラップの場所まで走り、罠解除の魔法をかける。
すると……、
「わわっ!?」
部屋の中心部がまばゆく光ったと思ったら――――そこには大量のモンスターが現れていた。
「なんで!?」
「まさか……、逆手に取られるなんてね……!」
「なるほど……。罠解除に反応するトラップかよ」
「な、なんですかそれ~……!?」
「よくわかんないけど、戦闘開始だねッ! いっくよ~ッ!」
入り口をくぐっただけなのに。もう激闘開始である。
確かにこれは、以前俺がくぐったダンジョンとは性質が違う。
モンスターは強かったけど、こんな特殊なトラップが設置されているような場所では無かったはずだ。
「でもまぁ……。起動したものが、『ただの戦闘』で良かったかな……」
言いながら俺も戦闘態勢に入る。
この二ヵ月。
連携を高めた二ヵ月。
まだまだ粗削りではあるけれど――――こと『攻撃力』だけで考えれば、俺たちはプロBランクにも匹敵する。
それくらいのチカラをつけているのだ。
「行くぞみんな! ボール……出します!」
思い思いのポジションへと散っていく三人。
俺は。
掌に魔力を込めた。