良く晴れた朝六時。
 俺、すめし、るいちゃんの三人は、カルマさんに連れられとあるダンジョンへとやってきていた。

「今日も元気!」
「眠い……」

 冒険者には朝も夜も無い。
 中学生(いっぱんじん)時代、学生ながらに不健康で体だな生活を送っていたのだが、だいぶ改善はされてきている――――のだが、それはそれとして、寝起きは眠いのです。

「わたしも寝起きは良くないので、気持ちはわかりましゅ……」
「意外だねるいちゃん。けっこうしっかりしてると思ってたよ」
「気合い入れないと起き上がれないんですよね……。身体重くて」
「身体が……」
「一般の方よりも重くて……」
「重いってそういう意味じゃ無いだろ普通」

 むちむちした身体がのそりと揺れる。
 確かに。この身体を起こすだけでも、他よりもエネルギーを使うのかもなあと思った。

「それもあるんですけど、睡魔には勝てないですね……。快楽に弱くて、すぐ寝ちゃうんです……」
「誤解を招きそう」

 眠そうに目をこする(と言っても前髪で見えないけれど)彼女を横目に、それ以上にやばそうなすめしを見やる。

「まさかすめしが、一番朝に弱いとはなぁ……」
「zzzzzzzzz……」

 ベンチに横たわり、ライトアーマーのまま横になる女騎士。
 眠っている姿勢は綺麗だが、しかしそこは眠りにつく場所ではないし、なんならもう一時間もすればダンジョンに突入である。

「タマ……だめよ……。私の知的財産は奪わせないわ……zzz……」
「どんな夢見てんだよ」
「督促状はやめて……。島流しにあうわ……。あぁ……、確定申告の時期が……、時期が……」
「割とシビアな世界観かな?」

 すめしの頭の中身が心配だった。

「起こします?」
「あ、寝てるすめしに近づかない方がいいよー。近くに生命体が寄ってくると、根ながらもオートで攻撃してくるから」
「こわ!? どこのエージェントだよ!」
「冒険者ってエージェントみたいなものじゃん」
「睡眠魔法が効かないのは強いですね……」

 るいちゃんはプラス思考だった。

「まぁすめすには前に直接説明してるからいいや。二人には今から説明するね」

 というわけで説明開始。からの、説明終了。
 要約すると、異変ダンジョンが見つかったので、今日はそこに四人で向かってみようとのことだった。

「ちなみにランクは、プロB!」
「「いやいやいやいやいやいやいやいや!!!!!!」」

 るいちゃんと共に驚きの声を上げる。
 その声と共にすめしがむくりと起き上がっていた。

「プロBって、業界でもかなり上のほうじゃないですか!」
「うん! ボクも未体験ゾーンだね!」
「しっ、死んじゃいますよ~……!」
「大丈夫だよ。二人ともこの間Cランクまで上がったじゃん」
「と言っても、『見習い』のCですよ! プロBはあまりにもかけ離れてます!」

 あの後カルマさんらに連れられ、俺とるいちゃんもどんどんランクが上がっていった。
 現在のランクは、カルマさんとすめしが見習いAランク。俺とるいちゃんが見習いCランクだ。

「とはいえ早すぎますって……」
「でも一週間前も、プロDならいけたじゃない?」
「奇跡的にね……」

 俺の魔法球をすめしがギリギリで決めてくれなかったら死んでいた。
 るいちゃんも、肉体的には無事だったけど精神的にはかなり追い詰められてたし。

「というか、すめしは賛成なのか?」
「えぇ。私とカルマはAに上がったから、そろそろプロの現場に多く慣れておきたいし」
「まぁ……、後は時期が来れば卒業できるもんな……」

 Aランクに上がった者は、七月と十二月の時期になれば卒業となる。
 そろそろ六月になる時期なので、あと一ヵ月くらいで二人はいなくなるってことだ。

「あのね、タマ。
 私とカルマが卒業したら、どうなると思う?」
「ん? どう……ってのは?」

 全員の顔を見やり、しばらく考える。
 俺、カルマさん、すめし、るいちゃん……。なんだ?
 うーんと考えていると、頭上からるいちゃんの「あっ」という声が聞こえた。

「お二人が卒業してしまうと……、このパーティはわたしとタマせんぱいだけになる……!」
「ん? そういえばそうだね」
「せんぱい! 何を呑気なリアクションしてるんですか! これ、けっこう大変な事態ですよ!」
「え?」
「今わたしたちのパーティがどういう風に成り立っているのか、考えてください!」
「えっと……」

 腕組みをして考えると、俺もるいちゃんが言いたいことにたどり着いた。

「あっ、そうか! 前衛がいなくなる!」
「そうなんです!」

 今このパーティは、Aランクの前衛二人が、Cランクの後衛二人を守っていることで成立している。
 かつ、精神的にも前衛組が引っ張ってくれていると言っても過言ではないだろう。

「わたしとせんぱいだけだと、ものの役にも立ちません!」
「そこまで言わなくても」
「いえ、今日は言わせてくださいです!」
「おおう」

 るいちゃんはずいっと体をつめてきた。
 むちむちした体が近くに来てどきりとしてしまうが、今は話に集中しよう。

「わたしとタマせんぱいは、Cランクに上がれたとはいえ、いじめられていた過去や悪評までは払拭できていません」
「そ、そうだね……」
「つまり、他の人とパーティを組んだとしても、うまくいかない可能性が高いんです!」
「確かに……」
「そもそもわたしたち二人は、特殊な攻撃スタイルなんです! そんなの、他のパーティの人たちと合わせられると思いますか!?」
「で、でもさ……。俺たちもCランクに上がったんだから、話くらいは聞いてもらえるんじゃ……」
「いえ! クソザコメンタルのわたしとタマせんぱいでは、絶対うまいこと説明できません!」
「ひでえ言われよう!」

 ……でも、確かに。
 新しい前衛の人に、『特技はボール出し』ですと説明しても、訝しがられて終わる気がする。

「だからタマせんぱい! わたしたちも二人が卒業してしまう前に、せめてAランク一歩手前までは上がっておかないといけないのです! そーきゅーに!!」
「そ、それはそうかも……」

 なんてこった。
 そりゃあ見習いCまで来れたのは自分の力だけではないと分かっていたけれど、この二人が抜けてしまうとパーティとして成立しなくなるだなんて。

「とまぁ。そんなことをカルマが提案してきたのよ」
「なるほど……。ありがとうございますカルマさん」
「えへへ!」
「本当は更に上のB+に行こうとしていたから、ストップをかけたわ」
「カルマさん!?」
「えへへ!」
「笑って済むことじゃねえ!」

 まったくとんだパーティメンバーだ。
 軽い気持ちで仲間を死地に送ろうとするのだから、全く気が抜けない。

「まぁそれに……、私としてもあなたたち二人に抜けられたら困るしね」
「すめし……」
「勘違いしないでよね。私もタマのことが気に入り始めているだけなんだから」
「うん……、うん……? それ、何も隠せてなくない?」
「え? 私があなたに好意的な感情を向けてるのは、周知の事実でしょう?」
「なんかド直球のデレが飛んで来たんだが!?」

 しかもタイミングが変だ!
 というかすめし。それじゃあお前は、何の感情を隠したくて『勘違いしないでよね』構文を使ったんだ……。

「とりあえず、話しはまとまったかな? 出発出発~!」
「はーい……」

 こうして俺たちはいつものように、カルマさんの後に続いた。
 無理難題も日常の内。
 いつも通りのクエストの始まり。

 だから。
 まったく予想していなかった。
 このクエストが、俺の運命を大きく変えることとなる一件になるとは。
 この時は、露程も。