さて、るいちゃんの戦闘パートだ。
あれから俺たちはさっそくパーティを組み、最後の休憩を終えて魔物除けを片付けた後、ダンジョン探索に戻った。
「そして――――またもひどい目に遭ったわ」
「すめし、マジですまん!」
「ごめんなさい……、ごめんなさい……、すめしせんぱい!」
あれから五分。
るいちゃんと初めてのパーティ戦闘を行って。
すめしは大ダメージを受けていた。
味方からの魔法ダメージを受け、ぼろぼろである。
味方っていうか、るいちゃんなんだけど。
「あしっ、足が、もつれてしまって……!」
「どうやったら移動をほとんどしない魔法使い職の足がもつれるのよ!」
「すみません、すみません……!」
謝り続けるるいちゃんを見て、俺は首をかしげる。
彼女は思った以上にどんくさい。
これが普通に、身体が大きくて動きが遅い人というのであれば、性格的にも納得なのだが……。
彼女はカルマさんやすめしと同じように、元・アスリートで実力者だ。
いくらなんでも、ここまでどんくさいのは流石におかしい。
「その魔法手袋と、相性が悪いとか?」
彼女は俺と同じく、杖では無く魔法手袋で魔法を使用する。
武器の類を持っていなかったから、てっきりカルマさんみたいに徒手空拳で戦うのかと思っていたのだが、まさかの後衛職だった。
いやその……。
身体が大きいから、頑丈そうというイメージも先行しちゃって。
ともかく。
「それとも、疲れてて魔力自体がうまく操れてない……とかかな?」
「あの、その……」
俺の言葉に、るいちゃんは申し訳なさそうに両手を胸に押し当て、うつむいてしまう。
うーん、どうしたものか。
「……まぁ、原因は分かってるわよ」
「ん? 何だすめし?」
俺は微妙な回復力の魔法を彼女にかけつつ、疑問を投げた。
するとすめしはるいちゃんの方を見て、問いただすように言う。
「あなたたぶん、無理して魔法使いをやっているでしょ?」
「え……? そうなのか?」
「あーいや、待った。違うわね。
良い言葉……。良い言葉、無いかな……」
すめしは自分で言った言葉を自分で否定して、待ったのポーズをして眉間にしわを寄せる。
どうやら良い言い回しが出てこないみたいだ。
そしてしばらくの後、「これね」と結論を出す。
「あなた……、どこか強引に魔法放ってるでしょ?」
「…………えっと」
「そうでないと、その魔法の威力の弱さはおかしい」
「…………、」
沈黙するるいちゃん。
優しく答えを待ってやりたいけれど、今は既に魔物除けの外だ。それに手持ちの魔物除けは使い切っているし、制限時間もそんなに多くない。
本音を言えば、戦いながら会話をしたいくらいである。
「るい、答えられない?」
「うぅ……、え、えっと……」
「……っ、」
正直。
今の二人の『気』の差は、いかんともしがたい。
正直に答えさせたいがために、どうしても言葉の圧が強くなってしまうすめし。
正直に答えたいけれど、何かが引っかかってしまい、かつ気圧されて黙ってしまうるいちゃん。
このまま仲間内でにらめっこしていてもらちが明かないし、それに――――
「QLrrrッ!」
「すめし、またモンスターだ!」
「ハーピィか……。
いいわ。私が応戦する!」
現れた四匹のハーピィ系モンスターへ、彼女は勇ましく向かって行った。
しかし疲労もあるのか。そしてるいちゃんからの魔法ダメージも抜けきっていないのか。二匹は倒すことが出来たがもう二匹への攻撃は、空を切った。
「チッ……! 動きが意外と早い……!」
「すめし!」
「タマ、あんたはそこにいなさい!」
「ぐ……!」
ひゅんひゅんとすめしの剣を掻い潜るハーピィたち。
翼と獰猛な爪をどうにか受ける彼女の表情は、苦しそうだ。
「るいちゃん!」
「……っ!」
俺は彼女の大きな手を掴み、言った。
「頼む。すめしを助けてくれ。
悲しいかな、俺ではどうしても前線は務まらない」
「……、」
情けないことに、今の俺では役に立てない。
仮に防御上昇が使えたとしても、一撃防ぐのが関の山だろう。
「るいちゃん、頼む!」
「わ、わたし、は……」
るいちゃんは俺の顔を見下ろしながらも、不安そうに口をゆがめた。
だから俺は、ぎゅっと強く彼女の手を握って言った。
「思った通りにやってくれ、るいちゃん!」
「え……」
「誰もきみを、馬鹿にしたりしない。
仮にきみがどんな変なことをしていたって、俺もすめしも受け入れるから!」
「……ッ!」
ぎゅっと。
今度は俺の手に、圧がかかる。
彼女の手に、魔力ではない熱が、込められたのが分かった。
「タマ、せんぱい……」
俺の手を包み込む掌は。
とても大きい。
この手でずっと、バレーを続けてきたんだと。頑張り続けてきたんだと。そう思う。
「い……、いきます……!」
ばっと俺の手を離したと思ったら、彼女は身体を正面からすめしが戦う方へと向けた。
そして。
左手を前へ突き出す。掌を上へ向ける。そこに――――魔法が宿る。
「るいちゃん……」
それは、バレーボール大の魔法球だった。
それ自体は、先ほど彼女が放っていた――――放ち損ねていたものと同じ。
しかしさっきと今ではフォームが違う。
彼女はその魔法球を軽く上空に放り投げると、更にそこへ向かってジャンプする。
記憶の中の光景と照合し、このポーズを検索した。
そうか……。このフォームは……。
「ジャンプサーブ……!」
バレーにおける、攻撃方法の一つ。
ネットを挟んだ向こう側の敵へ、出来るだけ強い、もしくは取りにくいボールを放つというプレーである。
飛び上がりと打ち下ろしによるその打球は。
テレビで俯瞰的に見る以上に、――――速度と威力があるという。
振りかぶられた大きな右手が。掌が。
ダイナミックに、魔法球へと振り下ろされた。
「ん――――ッッ!!」
強い呼吸と共に。
強い打球が放たれる。
それは一撃のレーザービーム。
一筋の閃光とも見紛う黄色の軌跡は、瞬く間にハーピィの一体へと飛来して。
ピンポイントで頭部を打ち抜いた。
「Qgggghッ…………!」
悲鳴と共に霧散していく一体のハーピィ。
その残滓にはただの魔法効果だけではなく、雷魔法の痕跡が纏われている。
「もういっぱつ……、行きます!」
「すめし、離れろ! さっきよりもやばそうだ!」
「――――ッ!」
俺の言葉にすめしはローリングでハーピィから距離を取る。
それと同時。
再び同じルーティンから、るいちゃんは魔法球を作り出し、放つ。
次の大砲は、先ほどとは違う。
黄色では無く、青色の軌跡だった。
「これは……!」
「二種属性……!」
驚くすめしの横を、るいちゃんの魔法が通り抜ける。
氷魔法が直撃したハーピィは、今度は中空で凍り付いた後、砕け散って塵となった。
「雷と氷……、まさか二種類も操れるなんてね」
俺が放つ魔法球や、カルマさんが日ごろ纏っている魔法は、無属性な魔力だ。
シンプル故に自由がきく、適性があれば誰でも扱うことができる基本的な魔力である。
属性魔法とは。その無属性な魔力に、何らかの属性をプラスして使用することが出来る。
例えばすめしの炎魔法は、基本の魔法に炎属性をプラスしているものとなる。
しかしてこの属性魔法。
基本的に扱える属性は、一人につき一種類だ。
すめしなら炎。
もしかしたらカルマさんは、風あたりに適性があるかもしれない。
俺はよくわからないけど、雷だったらカッコイイかもとか思う。
まぁそんなところで。るいちゃんはまさかの、二重属性持ち。
かなりレアな才能とも言える。
「あ、あの……。違うんです」
「え?」
「わたしが使えるのは……、よ、四属性なんです……」
「「――――、」」
絶句する俺たち。
この学園に居るものなら、この異常性に驚かない者などいないだろう。
「そ、それって……、どれくらいの確率なんだ……?」
「さぁ……? そもそも三属性持ってる人っていうのが、世界中探しても十人いるかいないかって聞いたことがあるけれど」
「控えめに言ってヤバいな」
「大げさに言ってもヤバいわよ」
「う、うぅ……」
あっ! るいちゃんが俺たちの「ヤバイ」という単語に反応して縮こまってしまっている!
大型動物がいきなり小動物になったみたいでカワイイ……とは思うが、正直……、
「若干めんどいわね」
「すめしは正直だった」
空気が読めるのか読めないのか。
でも、この歯に衣着せない言い方をするのが、コイツなのだった。
というかたぶんカルマさんも同じタイプだ。
本当に俺たちとパーティを組む流れにして良かったのだろうか。
俺がそう頭を抱えていると、すめしは「なるほどね」と、怯える彼女の身体をぺたぺた触りながら言う。
「この身体、バレーのための身体なのね」
「は、はい……。そうみたいです……」
「いい身体ね」
言いながら彼女は、次々と部位を触り、なぞっていく。
二の腕の筋肉。肩の筋肉、背筋。首筋までは届かなかったので、腹筋を触って、指は更にその上へ――――
「ひゃふっ……!」
「あっ、ごめんなさい。つい」
「こらすめし!」
「すっご……。すっげ……」
「口調変わってるぞお前」
「タマ、あなたこんなのに顔うずめたの? それで正気を保ってられるって、男として大丈夫?」
「何の心配だよ! そしてるいちゃんに色々と謝れ!」
胸の話題をしていたら、先ほどの感触を思い出してしまうから勘弁してもらいたい。
張りがあって、それでいて柔らかい。大きいのにカタチも良い、とんでもなくとんでもない、質量という名の凶器だった。
「話を戻すわ」
「お前が脱線させたんだろ」
すめしはコホンと咳ばらいをして、るいちゃんに言う。
「あなたは、バレーの動きと共に魔法を放つスタイルを取っていた。そして魔力の通り方も、そのフォームのときだと全然違う。
そのときだけ、通常の魔法に加え、属性付与もすることが出来る」
「そうなんです……」
なるほど。だから魔法手袋だったのか。
確かに彼女のスタイルなら、杖や長物は必要ない。
でも、さっきまではそのフォームで動かなかったということは……。
「けれど。どこかで誰かに、そのスタイルが否定されてしまった」
「その通りです……。お前の動きは変だって」
最初はちょっと笑われていただけだったらしい。
けれど、今の虐めの主犯格は、本格的に攻撃を開始した。
「いつまで昔の栄光にすがってるんだって言われて……。
たしかに。わたしはもうバレー選手じゃなく、冒険者なんだから。昔のことは、捨て去らないといけないはずだったんです……」
それは、これまでも色々と『折られて』きた彼女にとって、決め手となってしまったのかもしれない。
好きだったものを取り上げられ、道を強制させられた。
これまで鍛えてきた身体も。
これまで蓄えてきた思い出も。
全て、捨て去らなくてはならないと。
間違って、思ってしまった。
「だから必死で、普通の魔法使いになるよう頑張りました……。
けれど、普通のフォームじゃあ全然魔法も使えなくて……。飛んで行かなくて……」
自らで才能に蓋をしてしまったということだ。
まぁでも……、自信を砕かれたり否定されることの辛さは、俺も痛い程に分かる。
「…………、」
ゆっくりと頷くるいちゃんに。すめしは「ばかね」と柔らかく言う。
「こんな立派な身体を持ってるのに、有効活用しない方が勿体ないわよ」
「すめしせんぱい……」
「だいたいね、るい」
「はい?」
「こんな職業なのよ? 他人の評価を気にするより、自分が勝ったり生き残ったりすることを考えなきゃ」
「あ…………」
すめしの言葉に俺も続く。
「それにるいちゃん。俺たちは既に、パーティだ。だからパーティの方針には従ってもらうよ」
「え?」
「俺たちパーティは、『やれることは全力で』だ。
あんな凄いことが出来るのに、やらないなんて、手を抜いてる証拠だよ」
「それは……」
「そうよるい。偉そうに言ってるこの男は、普段はまったく役に立たないんだから。
あなたが頑張ってくれないと私が大変なのよ」
「すめしてめえ」
「事実でしょ」
事実ですが。
まぁなんにせよだ。
「るいちゃんのバレーのフォーム、めちゃくちゃカッコよかった」
俺も彼女の顔を見て、はっきりと告げる。
「だからこれからも、元・バレー選手の鯨伏 るいとして。
そして、俺たちパーティの一員、魔法使いの鯨伏 るいとして、頑張ってほしい!」
「タマ先輩……」
「あなたも言うようになったわよね……」
すめしはややニヒルに笑い、地面を見て笑う。
うるせえなと俺も笑う。
るいちゃんは再び、「タマせんぱい」とつぶやいていた。
「…………ん?」
「あの、だ、だから……、タマ、せんぱい……!」
「うぉぉぉッッ!!? な、なになになに!?」
「QLRRRRRrrrrrrッッッッ!!!!」
俺の頭を背後から咥える、大型鳥類モンスターが一匹!
え、嘘!? まったく気づかなかった!
「おぎゃあああああッッ! あたま! あたま、割れる!」
「え、タマ!? 大丈夫!?」
「タマせんぱい、を……! はなせ……ッ!」
綺麗なジャンプフォームから繰り出される、炎の魔球が一発。
その球は素晴らしいコントロールで俺を咥えていたモンスターに直撃するも……、その体を燃やし、その炎は俺まで伝播する。
「QQQQEEErrrr!!」
「あちちちちちちちッッッ!!」
燃え盛るモンスターと俺を見つつ、るいちゃんはひたすら謝っていた。
「なるほど。乳とあちちをかけたということね」
「んな余裕ねえっての! いいから助けろ!」
「だって私の魔法も、炎魔法だし……」
その後。るいちゃんの氷魔法で冷やしてもらった後、自分で回復魔法をかけましたとさ……。
俺も人の事言えねえけど。
このパーティ、フレンドリーファイアー多すぎない?
プロフィール・4
名前:鯨伏 るい(るい)
身長/体重:205センチ/78キロ
職業:魔術師
物理攻撃:A+++ 魔法攻撃:E
物理耐久:A+++ 魔法耐久:F
敏捷:E 思考力:F
魔力値:C 魔吸値:B+
常時発動能力
物理耐久:D、動体視力上昇:B、自己修復:B
任意発動能力
炎魔法:B、雷魔法:B、
風魔法:B、氷魔法:B