捻百舌鳥(ひねもず) 逆示(すめし)の戦闘スタイルは、分かりやすく言うと魔法剣士(マジックナイト)だ。
 テニスで培った身体能力で剣を振るい。
 赤い髪のイメージ通り、炎の魔法を放つ。そんな戦闘スタイル。

 両断。破断。
 放射。延焼。
 時と場合によって臨機応変に対応できるその立ち回りは、魔法と剣技を操る職業として、ほぼ理想形と言って良いだろう。

「すめし、右!」
「分かってるわ!」

 彼女の振るった剣が、まるでバターにナイフを入れたかのように、ゴブリンの身体を両断する。
 逆サイドから詰め寄る残りの二匹も、彼女の放った炎魔法(フレア)により、黒塵と化していた。

「ゴぁ、ァ、ァ、ァ……」

 散って行くゴブリンたちを背に、状況は終了した。
 俺が手に魔力を込めた意味を、もう少し組みとって欲しかった。

「力、借りるまでも無かったわね」
「言うな」
「掌に魔力を集中させて、見事に終わったわね」
「だいぶイジるじゃん」
「冗談よ」

 だから冗談に聞こえない。
 クールな出で立ちも大概にしてほしいものである。
 口角くらい上げればいいのに。

「お、ポイントになったな」
「そうね」

 ゴブリンたちの瘴気は中空で一度一ヵ所に集まり、瞬間的にポイントを表示した後、再び霧散していった。

「なるほど。これが点数表示か」
「ポイントで競い合う試験は初めて?」
「だな。この手の試験って、だいたいは少数人数で挑むものが多いだろ?
 そうなると必然的に、パーティ全員攻撃型になりやすいんだよ」

 その方が効率が良いというか。
 サポートタイプの冒険者(見習い)だと、相当ランクの高い人じゃ無いと声はかからないんじゃないだろうか。
 まぁ……。単に俺が嫌われていたり、悪評が付きまとっていたりって理由もあるんだろうけど。

「まだ周囲に、第二陣もいるわね。気を抜かないように」
「おう、了解だ」

 迷宮タイプのダンジョンは、通路が狭い代わりに、隣の通路を歩いているモンスターの息遣いや足音もキャッチできる。
 確かに近くを歩くモンスターの気配がある。
 それまでに、俺と組んだ理由をはっきりさせておこう。

「……それで。何で俺だったんだ?」

 ゴブリンたちが出る前、その理由を聞こうとしていたところである。
 俺の言葉にすめしは、「えぇ」と頷いて答えた。

「カルマが自慢してくるっていうことまで話したんだっけ」
「そうだな。
 どんなことを言ってたんだ?」
「そうね、主に――――」

『タマはいいよ! エモいよ! とにかくイイ子で、一緒にクエストに行くと超テンション上がるんだよ! いいだろーすめし!』

「とのことよ」
「なんにも情報が伝わってない!?」
「トランプで言えばジョーカーだということだけは、伝え聞いているわ」
「ふわっとしてる!」
「でもカルマってトランプ弱いから……。ジョーカーの意味を間違って使っている可能性もあるわね」
「そうかもしれない……」

 あの人にとってジョーカーとは、『初手で切っても良い強い手札』くらいの認識でもおかしくない。
 そしてカルマさん、トランプ弱いのか。でも言われてちょっと納得だった。

「というか、すめしたち二人がそういう遊戯めいたものを行っているシーンが、全然想像できないんだけど」
「失礼ね。やることはやってるわよ」
「その言い方だとカルマさんと百合百合してるみたいになるけど」
「あ、いやその。違うわよ。そういうのはまだ男女ともに無いし、そういうコトは一人で、」
「おおぉい!? 何のカミングアウトだよ!?」
「っと、危ないわね。……ギリギリだったわ」
「いやほぼ言ってたよ!」
「こんな会話だけでイクわけないでしょ!? 中学生じゃないんだから!」
「待て待てすめし! もうグレーゾーンは通り過ぎてる! お前風に分かりやすく言えば、これまではギリギリダブルスコートだったけど、今はもう観客席くらいにボールが落ちてるから!」
「まぁネットインが続くよりはマシでしょ」
「むしろこの話題のラリーを続けないで欲しかったんだよなあ……」

 お互いに、けっこう無茶な話題(ボール)でも拾っちゃう性質みたいだからさ。

「ふぅ……。
 じゃあ、話題を戻すわね」
「おう?」
「元々は、『カルマがあなたをどんな風に言っていたか』の話だったでしょ?」
「あぁそういえばそうだったな。
 他にも何か言ってたのか?」

 俺の質問に、すめしは綺麗に頷いた。

「〇〇〇が、だいぶかたいって――――」
「だからそのラリーを開始するなって!!!」

 つーか。
 あの人何話してんの?
 あの人何話してんの!?
 世界的にも有名な元・天才テニスプレイヤーに、どんな情報伝えてんだよ!

「よくよしよししてあげているとは、そういう意味なのね?」
「違う」
「良くシテもらってるというのも、そういう意味なのね?」
「違うから!」
「いいのよ、月見くん(・・・・)。ちなみにこのクエスト、途中離脱はできたかしら?」
「露骨に距離を取ろうとするな!」
「大丈夫よ。節度ある関係なら、私からは何も言うことはないもの」
「誤解だすめし。俺とあの人の間に、そういうロマンス的な要素は一切ない」
「そういう関係じゃないのに、〇〇〇の具合を知っている方が問題だと思うの」
「具合とか言うな」

 破壊力が高いよ。
 直接的な単語を使っていることよりひでえ。

「羞恥心はとっくに無いわ、私。
 そうじゃないと、カルマ(アレ)の知人なんて勤まらないでしょう?」
「ひっでえ理由」

 共感性百パーセントだけどさ。
 しかし、あの人経由でつながる人脈っていうのも、変な縁だな……。

「じゃあ話題を戻すわね」
「今度こそ戻してくれよ?」
「今度こそ大丈夫よ。
 まぁあなたの戦闘スタイルだけど、魔力球を提供するだけというのは聞いているわ」
「それは良かった……」

 話題をちゃんと戻してくれて、二重の意味で良かった。

「えーっと……。でもそれじゃあ、ますます謎なんだが?」

 俺の役割を、謎のポジション・『ボール出し』と知った上で組んだということだ。
 多少の強化魔法(バフ)や回復も使えはするが、すめしにとってはそんなもの必要としないだろう。

「言ったでしょ? 彼女が自慢するって。
 だから私も、打って(・・・)みたくなったのよ」
「打つ? 何を?」
「だから。あなたのボールを」

 言って彼女は剣を抜いたかと思うと、そこへ魔法を送り込む。

「カルマから話を聞いたときから、密かに練習してたのよ」

 魔力は次第にカタチを帯び、楕円で平べったい形状へと固まっていく。

「それ……、ラケット!?」
「これであなたの『魔力球(ボール)』を、打つことが出来る」

 隣の通路に居たモンスターが、こちらをターゲットと認定する。
 複数では無く単体だが、身体の大きいゴーレムタイプである。

 それと同時。
 彼女は先ほどまでの、剣士のような構えでは無く。
 テニスプレイヤーがこれからボールを打つための、フォアハンドストロークの姿勢を見せた。
 右手に(ラケット)を構えて肩を開き、やや中腰の姿勢を取るすめし。
 彼女の強気な瞳が、こちらをちらっと見た。

「だ、出せってことか……! 今、ここで……!?」

 魔力の話である。
 いや、さすがにこの会話の流れでは分かるか。
 ともかく。

 元より俺に、いや、俺たちに選択肢は無い。
 既に向こうからモンスターが、鈍重な足音を響かせながらこちらに走ってきている。
 あの巨腕で攻撃を受けたら、いくら低ランクモンスターの一撃とはいえ、大きなダメージとなるだろう。

「よ、よし……!」

 俺は両手に魔力を込め、カルマさんへ提供するときと同じように、特大の魔力球を生成した。
 杖を使わなくなった俺は、現在魔法(マジック)手袋(グローブ)を使っている。
 杖よりも魔法の媒介としては弱いが、その分杖を持たなくて済むので、両手が空くというメリットがある。

 ただ、あまりにも魔力が通りやすすぎる(・・・・・)せいか。
 どうにもサイズ調整が安定しない。
 前みたいにサッカーボール大に凝縮出来る事もあるのだが……、今日はいつものように、大玉タイプである。

「受け取れ、すめしっ!」
「え――――、は、はぁッ……!?」
「え?」

 これまでのクールな出で立ちからは想像できない、頓狂な声を出すすめし。
 放物線を描き飛んで行く魔力球は、いつものように止まらない。
 ある程度はコントロールが出来るようになったので、一応彼女のラケット付近に行くよう調節したのだが――――

「これは……! む、無理ッ……!」

 彼女はどうにか俺の魔法球を弾き飛ばそうと試みたが――――失敗した。

「え、失敗って!?」

 瞬間。
 ちゅどん! という音と共に、すめしの居る地点は彼女ごと爆発に見舞われる。
 黒煙の中。ボロボロの大ダメージを負った彼女の姿が現れた。

「だ、大丈夫かすめしー!?」
「へ、平気、よ……」
「明らかに平気そうじゃねえ!?」
「ガフッ……!」

 口の中から黒煙を吐き出す彼女。
 綺麗な白い肌も赤い髪も、魔法煙により真っ黒に染め上げられていた。
 爆発実験に失敗した科学者みたいである。

「すめし、前! 前!」
「くっ……、こンのぉッ!」

 苛立ちを発散するように。すめしはそのまま剣を振るった。
 テニスラケットの形をした、剣のようなナニカは、そのままゴーレムの腕と衝突して。
 そして腕ごと、ゴーレムの身体を粉砕した。
 肩で息をしながらも残心をとったかと思うと、すっと剣を天井に掲げ、勝鬨を上げる。

「だっしゃああああッッ!」
「すめし、キャラ! キャラブレがすげえ!」
「うっさい! あなたのせいでしょうがッ!」
「理不尽な!?」

 何というか。今のは。
 月見(つきみ) 球太郎(きゅうたろう)の、正しくない使い方の一例みたいにして、戦闘は終わった。

「とりあえず……、休憩、しましょ……」
「お、おう……」

 本日の俺の成果は。
 魔物除けを設置したのと、すめしへ(フレンドリ)の攻撃《ーファイア》だけである。

 捻百舌鳥(ひねもず) 逆示(すめし)とのクエストは。
 あまりにも、愉快すぎた。






プロフィール・3


名前:捻百舌鳥 逆示(すめし)
身長/体重:160センチ/52キロ
職業:魔法剣士(マジックナイト)

物理攻撃:B+  魔法攻撃:B+
物理耐久:B   魔法耐久:C
敏捷:B     思考力:C
魔力値:B+   魔吸値:B

常時発動(パッシブ)能力(スキル)
炎耐性:D、氷耐性:D、風耐性:D、雷耐性:D、光耐性:D、闇耐性:D
状態異常耐性:E


任意発動(アクティブ)能力(スキル)
炎魔法(フレア):C、回復術(トリトム):D、状態異常回復術(リカバー):D、