――冬芽たちが着く頃、屋敷が並ぶ鬼の里では梅乃を迎える準備が万端整っていた。

「さあお嬢さん、碗を持って。いや、若いお嬢さんなら甘い飲み物の方がいいのか? 確か人間の法で酒はだめだったな? 果実絞りなんかどうだろう」

「あ、はい……」

梅乃に茶碗を持たせて甲斐甲斐しく世話をするのは、梅乃の祖父よりも老齢の小柄な男性だった。

一番大きな屋敷の畳の大広間では宴会が繰り広げられていた。

冬芽が梅乃を連れてきたときには、冬芽の側近から事情を聞いていた鬼の一族の者たちが、苑を助けてくれた少女に精一杯お礼をしたいと、料理を準備し会場を整え待っていた。

「あ、あの、私こんなことしていただくことしてないです――」

老齢の男性が、甘味を取って来よう、と立ち上がったので言えば、梅乃の隣が空くのを待っていたかのように綺麗な女性たちが寄ってきた。

「何を仰います、お嬢様。お嬢様が保護してくれなければ、わたくしどもの大事な家族が死んでしまうところでしたの。お礼をしてもし尽くせませんわ」

いつの間にか梅乃の周りにはたくさんの鬼の女性が輪を作っている。

どの鬼もにこにこしていて、梅乃がひとくち剜を傾けるだけで嬉しそうな顔をする。

梅乃は最初、危ない人どころか危ない集団に関わってしまったと後悔したが、なんという歓迎っぷり。

そしてこの人たちからは、人間ではないことがなんとなくわかる雰囲気があった。

見た目は人間とそっくりだが……どこか違う。そう思わせた。

「さっきの……鳥さん、大丈夫ですか? あの場所にいた人が絶対安静とか言ってましたけど……」

梅乃の言葉に、右隣にいる女性が答える。

鬼の里の住人は皆着物で、女性は髪にかんざしが飾られている。

「ええ。ご心配くださりありがとうございます。我らにも医者というものがおりまして、既に治療も済んでおりますわ。極度の霊力消耗で倒れていたようなので、冬芽様が霊力を分け与えられて、あとは少し眠れば大丈夫だろうとのことでした」

「そ、そうなんですね……大事なくてよかったです」

霊力とかゼンゼン話がわからないが、助けた存在が無事なのは素直に安心した。