「な、なんで来るんですか~!」

少女は山を走り――歩きなれていないのか、地面は平坦で手入れのされている山だが、冬芽はすぐに追いついた。

冬芽に腕をつかまれてこれ以上の逃走が出来なくなった少女は、涙まみれの顔をぶんぶん振っている。

「きみが危険なことを言うからだろう! あと礼をしてないからだ!」

「鳥助けたくらいでそんなこといいですよ! もう放っておいてください!」

「無理だ。我ら鬼の一族、受けた恩は必ず返す」

「だから――、鬼?」

はたと、少女の動きが止まった。

振り仰いだ少女は、まじまじと冬芽を見つめてくる。

「そうだ。驚かせたらすまない。我らは人間ではない。先ほどあなたが助けてくれたのは、鳥ではなく鬼獣。鬼の眷属だ」

そこでやっと少女は、冬芽が般若の面をつけていることに気づいたようだ。

両肩を震わせる。

「……鬼って……私を食べたりする、んですか……?」

恐々と訊いてくる少女。

その思い込みは、人間には多くされてきた経験がある。

冬芽は首を横に振った。

「そのようなことはしない。我らは、我らの同胞(どうほう)の恩人であるあなたに礼を尽くす。それだけだ」

冬芽は、純粋に少女に感謝している。

「だが、ここは本来人間が立ち入れない場所なんだ。心が弱っているときに何かにつけこまれて、こういう人間の外側に迷い込まされてしまう人間は過去にもあった。だから、あなたを無事人の世に返すまでは、礼は尽きない」

その言葉に、少女ははっとしたように目を見開いた。

どうやら冬芽の推測は当たっていたようだ。

少女は己を自殺志願者というくらい、心が弱っている。

それで、ここに迷い込んでしまった。

冬芽と出逢っていなかったら……。

少女がうつむいて喋りだした。

「……もし、もしもの話なんですけど……」