少女は茶色のブレザーという形の学生服に、背中の中ほどまでの黒髪。縁の太い眼鏡をかけていて、全体的におとなしい印象だ。

「いや、うちにこの子を診られる者がいるから大丈夫だ。気を遣わせてしまってすまない」

「それならよかったです。では、私はこれで……」

「あ、お嬢さん? なんでこんなところにいるのか訊いてもいいだろうか? ここは俺の管轄する私有地なのだが……」

人間が簡単に入り込めるような場所ではない。

鬼の地というものは、何かに迷い込まされることはあるが……。

そしてこの少女、冬芽の般若の面に驚いていない。

こんな面をつけた人間、通常生活ではいないはずだ。

「あ……ごめん、なさい……勝手に……」

冬芽の言葉に、少女がびくついた。

急に不安に襲われたみたいな表情になってしまった。

しかしその反応は、自分の意思で立ち入ったと認めるものだった。

青ざめた少女の顔。

「あなたを責めるつもりはない。だが、どうして入ってしまったのか確認したいだけなん――」

「わ、私自殺志願者なんです~!」

素早い動作で立ち上がった少女は、冬芽たちに背を向けて駆けだした。悲痛な叫びを残して。

半瞬遅れて、冬芽の脳が少女の言葉を理解する。

「――自殺というのは人間にとってやってはいけないことのひとつだったはずだ! 探し出すぞ!」

「冬芽様は止められませんね……苑を助けてもらった恩もあります。二手に分かれますか」

「ああ。俺はあとを追うから、お前は周りこめ。だが苑も気遣え」

「はっ」