「何があった!」

駆けつけた冬芽が目にしたのは、竹やぶの中、落ち葉の敷き詰められた地面に膝をつく側近と、その傍に、やはり同じように膝をついている、学生服の少女だった。

「と――御大(おんたい)。いえ、このにんげ――少女が、この子を連れていたのです」

冬芽の名前を伏せる側近が腕に抱いているのは、黒い鳥だった。

冬芽ははっとする。

「苑(えん)!」

側近の腕でぐったりしている黒い鳥は、冬芽の里の鬼獣(きじゅう)だ。

鬼の眷属(けんぞく)で、鬼であり、獣でもあるもの。

冬芽も慌てて傍に片膝をつく。

「あ、あの、飼い主さんですか……? 鳥さん、道端に倒れてたんです……」

いきなり大の男が二人も現れてびっくりしているようで、少女の声はおっかなびっくりだ。

警戒もしているのだろう、少し身を引かせている。

「ああ、俺の家族だ。助けてくれて、感謝する。しかし一体どうしたと――」

いうのだろう、そこまで言いかけて、先ほど側近に言われた言葉を思い出した。

冬芽が頭領である鬼の領地には結界があり、それを左右するのは頭領である冬芽の霊力であり生命だ。

ここのところ腑抜けていて、自分の中の調律がうまくいっていなかった自覚はあった。

だが、大した問題は起きていないと楽観視していた。……が、この鳥、苑の生命には支障が出てしまったようだ。

鬼獣は鬼に属する存在で、独立していない。

主人――この場合最高位である冬芽に異変があれば、配下となる鬼獣にさわりがでる。

……己の失態だ。

「意識はあるか?」

「いえ……呼吸はしていますが、目は覚ましません。しばらくは、絶対安静かと」

答える側近とのやりとりで、本当にこの鳥の飼い主だと思われたようだ。

少女はほっと息をついた。

「あの、かかりつけの動物病院、紹介しましょうか? 確か鳥も診てくれたはずです」

見た目は鳥だが苑は鬼の眷属なので、人間が利用する動物病院に連れて行ったらとんでもないことになってしまう。

そこで、冬芽は己たちが鬼であると言っていないことを悩んだ。

眷属を助けてくれた礼だけ言って立ち去ろうかと思ったが、それは出来ない。

ここは他者が侵入しないように結界を張った、冬芽たち鬼の領地だ。

なぜ入ってしまったのか、確かめなければならない。