冬芽も無自覚だったことをズバズバ言われて、戸惑うしかない。

そしてめちゃくちゃやる気になっている側近。

「里の者もすべて承知です。梅乃様に逃げられてはなりませんよ」

「あ、あー、うん」

ここで、そんなことしなくていい、と止めないあたり、自分も梅乃に特別な想いをいだきはじめているのかもしれない。

桃子のときとは、違う心。

「まあ、お前たちが梅乃を歓迎するのはいいことだ」

「当たり前です。さ、準備に戻りますよ。というか冬芽様はまず食事ですね」

「はいはい」

世話焼きすぎる側近に軽く笑って、冬芽は一度だけ鳥居の方を見やった。

あそこを通って梅乃が訪ねてくるのが、既に楽しみだという自覚もある。

次に梅乃が来てくれたら、どんなことをしようか。








朝、目覚めた梅乃は自分の部屋のカーテンを大きく開いた。

途端に差し込む太陽の光。

眩しくて右手をかざすと、その手に吸い込まれていった勾玉を思い出す。

冬芽がくれた、お守り。

「おはよう、私」

その声は、昨日の朝までのように暗くはなかった。むしろ、明るくさえ聞こえた。

この命は、鬼の里の人たちもらったかのように感じる。

お礼を伝えるために、逢いに行こう。

そして逢いにいくために、生きるんだ。

「お、おはよう、冬芽さ……これはまだだめだ……っ」

冬芽に逢った時の練習という気持ちで口に出してみたが、破壊力が強かった。

これでは自分を攻撃してしまう。

頭から湯気が出そうだ。

くるりと振り返って、壁にかけられた制服を見る。

昨日の朝までは、着るのが苦しかった。

ネクタイを結ぼうとしたら吐き気に襲われた。

でも、冬芽が似合うと言ってくれたそれを着るのが、今日は楽しみだった。

胸の前で、手を重ねる。

私、少しだけ強くなった気がします。

「ありがとう、皆さん。今日をがんばれます」

一瞬で大事な大事な存在になってしまったあの人たちに逢いに行くために、この命を大事にしよう。





END.