「ありがとうございます。……私、今まで楽しみなことってなかったんです」

「うん」

「だから、このためにがんばろう、とかいうのがなくて……虚無って言うんでしょうか。でも、皆さんのところへ行くのは楽しみになりました。鬼の里に行くために、生きていたいって思いました」

「うん……。梅乃、少し人の世を探ったのだが、いじめというのは我慢するものではないと思うんだ。立ち向かうのは、立ち向かうだけの元気が出てからでいい。ときには、逃げることも、この場合は逃げではないと俺は思うよ」

冬芽の言葉を聞いて、梅乃は右手を胸のあたりで握った。

「……はい。今の感じ的になんですけど、立ち向かえそうなんです。鬼の里さんっていう、逃げ場があるから。私、もうちょっと頑張ってみたくなったんです。それで、もしだめだったら……」

「うん?」

そっと、冬芽を見上げる梅乃。

冬芽が気づいて見返せば、ばっと視線をそらされた。

「な、なんでもないですっ。もしだめでも、皆さんに元気をもらってまた立ち向かいます。そのくらいの――勇気を、私、皆さんにもらいました。……だから、ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらだというのに……。梅乃、あの鳥居が出入口だ。あの鳥居を出れば、風景はガラッと変わる。梅乃の家の近くの神社というところに通じているよ」

「はい、ありがとうございます。……あの、ひとつ訊いてもいいですか?」

「なんだ?」

「どうして……冬芽さんだけお面をかぶってるんですか? 冬芽さん以外はみんなつけてなかったです……」

梅乃の質問に、冬芽は般若の面の左目のあたりに触れた。

「ああ。顔にね、大きな傷があるんだ。それがちょっとばかりみんなを護って受けてしまったもので……皆のせいではないと言っても俺の顔を見る度に痛そうな顔をする者たちばかりだったから、この面をつけているんだ。俺は頭領だから、顔を隠していても話が通ることも多かったしな」