平日のある日、咲桜は休日出の代休が出たので、多めの弁当を作って城葉犯研へ向かった。
運転免許を取ったので、その練習も兼ねている。
城葉犯研はそれに手頃な場所にあった。
顔馴染みになった昼間常駐の守衛さんに挨拶をして、ついでに差し入れのクッキーを渡した。
祖父ぐらい年の離れた守衛さんは、いつも穏やかだ。
流夜の室長室へ行く途中で研究員の一人に逢った。
差し入れに弁当を持って来たと言うと「全員室長室へ集めますっ」と宣言された。
どこかへ駆けだして行ったと思ったら、直後、棟内放送が響いた。
曰く、「咲桜さんが弁当持ってきてくれたぞー!」という、実に自由なものだった。
しかしこれも毎度のことなので、咲桜は苦笑して流夜の許へ向かった。
――そして現在。
所長を除く、以下七人の研究員が室長室にいた。
「会議室かどっかで食えばいいだろ」
単に咲桜と二人がいい流夜が文句を言うが、誰もまともに取り合わない。
「そこまで減った腹が持ちませーん」
「移動してる間に誰かに食べつくされたらどうすんですか!」
「どんだけだ……」
流夜がため息をついて、机の隣に立つ咲桜を見た。
咲桜はやはり、苦笑を返すしかない。
流夜と再会してすぐの頃、持たせた弁当を所員の一人に見つけられて、わけてやったら大層好評だったらしい。
流夜の方から、「時間あるときだけでいいからメシの差し入れをしてやってくれないか?」と頼まれたのだ。
笑満は大学生で咲桜とは時間軸が違ってしまったから休みの度に逢えるわけではない。
頼に至っては現在アメリカだ。
咲桜が休日で流夜が出勤の日は、差し入れを持ってくることが多くなった。
「はー、マジ美味い。美人さんで料理上手って、咲桜さん相当モテたでしょ?」