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式場の前の扉。
父が待っていた。
並んで、静かにその時を待つ。
「在義父さん」
「うん? どうした。ちゃんと似合ってるよ?」
「ありがと。……私の父さんになってくれて、本当にありがとう」
「……今言うのは反則だよ」
「さっきはこういうの、言える雰囲気じゃなかったでしょ」
咲桜がくすっと笑うと、在義もつられたように頬を緩めた。
「まあ、賑やか揃いだからね」
「うん。私、華取の家で育って、ずっと楽しかった。だから、これからもよろしく」
「当然。いつまでも咲桜は俺の娘なんだから」
「うん。あとね?」
「まだあるのか?」
「雨の日、流夜くんと一緒にいさせてくれて、ありがとう」
あの日、歯車は狂った。
流夜が風邪気味だと遙音に聞いた咲桜が、流夜のアパートを訪れた日。
それまで廻っていた歯車が、別のかみ合いを見せた。
咲桜はその日、在義に電話している。
もしあのとき、流夜のところのいることを許されていなければ、流夜に近づくこともなかったかもしれない。
今日は、その結果の一つだ。
「……そうだったね。でも、流夜くんだと決めたのは咲桜だ。いい人を、見つけたね」
「うんっ。在義父さんの娘だからね」
「……ああ」
扉が開く。
その先で待っているのは、いつも咲桜だけに向かって差し伸べられた手。
今日も、その手を取る。
自分の手を重ねて、そっと握り返す。
誓うのは、今まで傍にいてくれた、助けてくれた、見守ってくれた、大事な人たち。
一生の約束を、大すきなみんなに、誓う。