賑やかな部屋に、ノックの音が響いた。
式場の人で、準備が出来たか確認にきたという。
「ご案内いたします」
列席者と、新郎新婦は一度分かれることになった。
先に参列してくれるみんなが控室を出て、流夜と咲桜だけになった。
式場はタイトな時間設定で、流夜もすぐ出て行くという。
「あ、咲桜。言い忘れてた」
その直前に、ふと振り返った。
「うん?」
咲桜が顔をあげると、そっと囁いてきた。
「綺麗だ」
「―――」
さっきまで大丈夫だったのに、一気に顔が熱くなる。
咲桜はブーケを持ち上げて顔を隠した。
「……流夜くんも、かっこいいですよ」
「ありがとう。じゃあ、先行ってる」
その背を見送って、咲桜は唇を噛んだ。
今泣いたら、せっかくのメイクが崩れてしまう。
箏子が作ったドレスも汚してしまうと、必死に耐えた。
ずっとずっと、大すきだった。
一度は、一緒にいてはいけないのだと思った。
それでも流夜は手を差し出してくれた。
こういう、結婚という形をとれなくてもいい。
ただ、傍にいたい。
そう願って、進路を決めた。
今まであった全部が、今日に繋がっている。
一つも投げ出さないで、いらないなんて言わないでよかった。
自分の命を嫌いにならないで、いらないなんて言わないで、よかった。
あなたがすきだと言ってくれた、この命。
愛しています。あなたの総てを。
だから、あなたが愛しているものを、私も愛していきたい。
あなたが選んだ世界。
そこに、私も立って見せる。
だって、私の恋は、一生の中で流夜くんとの、一つだけだから。
……いつも、手を差し出してくれてありがとう。
私はこれからも、その手を取って行くね。