「せん――

「ちょっと待って、咲桜ちゃん」

ストップをかけたのは夜々子で、そっと耳打ちをされた。

咲桜はその言葉を疑ったが、夜々子が咲桜に嘘を言うとも思えない。

夜々子はにっこりしている。

「あの……おばあちゃん……?」

「! な、なんですかっ」

答えた。

ちょっと怒ったように聞こえるのは、これが『照れ隠し』なのかもしれない。

実は箏子は、咲桜に『おばあちゃん』と呼んでほしかったようだ。

咲桜は習慣でずっと『師匠』と呼んでいたから――

「ありがとう、ございます。おばあちゃんのおかげで、私、お嫁に行けます」

「――――、き、着てみなさい。直すところがあるなら、早い方がいいです」

「はいっ」

咲桜は笑顔で肯いた。


+++


「おねえちゃんきれー! おひめさまみたいっ」

「流桜。ありがとう~、流桜も可愛いよー」

今日も今日とて妹にデレデレな咲桜だ。

「当然だよ、流桜。咲桜は流夜くんのお姫様なんだから」

はしゃぐ流桜子を抱き上げた在義。

さらっと恥ずかしいことを言われて、娘はどういう顔をしていいかわからなかった。

「でも本当に咲桜ちゃんによく似合ってるわ。咲桜ちゃんぐらい背が高くてスタイルいいと、マーメイドラインも綺麗に着こなせるのねえ」

夜々子は、咲桜の花嫁姿にうっとりしている。

「琴子おばあちゃんのおかげです」

箏子が咲桜に作ったのは、咲桜の長身を活かせるマーメイドラインのものだった。

全体的に、レースやフリルは少なくすっきりとしたデザインで、肩ひもは腕にかかる格好で羽衣のようにも見える。

咲桜だけのためにウェディングドレス。