「嫁入り道具、ですか?」

咲桜が流夜の嫁になったのは一年も前なのだけど……。

箏子は「まずは」と切り出した。

「これです。薙刀(なぎなた)。夫を追い出したいときに役立ちますよ」

「なんでいきなりそんな前提になるんですか! 師匠未だに私のこと嫌いですか⁉」

薙刀を渡され思わず受け取ってしまった咲桜だが、叫んでおく。

隣にいる流夜が吹き出した。

「おや」と柳眉をひそめる箏子。

「お前は巴形(ともえがた)より静型(しずかがた)の方が好みでしたか?」

「刃の問題じゃないですよ! 流夜くん追い出したりなんてしません!」

しかもこれ、練習用のものじゃなくて実戦用――しっかり刃のついているものだ。ガチ過ぎる。ちなみに、薙刀には二種類あり、刃の形で巴形と静型とにわけられる。

「まあ冗談です」

「冗談にしては手が込み過ぎですよ! これホンモノじゃないですか!」

「あ、それはお前にあげますから。いくら隣り合っているとは言っても、お前が家に一人になることもあるでしょう。護身用具があるに越したことはありません」

「それは――……そうかもですが……」

「母さん。照れ隠ししてないでそろそろ見せたら?」

現れたのは、よく眠った流桜子を抱っこした夜々子だった。

「照れ隠し?」

薙刀を手に乗せたままの咲桜は、楽しそうな夜々子を見上げる。

そのまま視線を箏子へずらせば、思いっきりそっぽを向かれた。

……これが、照れ隠し?

「母さんから紹介しないのなら、私が見せちゃうわよ?」

「……咲桜、こちらへ来なさい。流夜さんも」

箏子は――初めて――ぶっきらぼうな手つきで咲桜の手を摑んで、隣の部屋の襖を開けた。

そこにあったものに、咲桜はただ目を見開いた。