咲桜と流夜は恋人だけど、別個人。
生き方が、生きる道がそっくり同じではない。
同じ時間を共有していても。
離れてみることで、見えていなかったものまで見えてくる。
もしお互い、その中で好意を持つ相手がいたなら、本来の運命はそちらへ繋がっていたのだと理解して、諦めようと思った。
でも、想い続けているしか出来なかった。
どうしても浮かぶのは咲桜の顔で。姿で。一時も頭から離れてすらくれない。
どうしたらいいのかな。咲桜しかダメみたいだ。
卒業式、もしも咲桜が自分のところへ来てくれたら――そのときは、彼氏がいようが誰を好きでいようが、掻っ攫う。
そう思って臨んだら。
現実の未来は想像より幸せだった。
頬をとらえて覗き込んだ瞳。
さすがに身長はもう止まったのか、そこに二年前との差は感じない。
けれど、白く透明な肌、光が強くなった瞳、女性らしく潤った唇。あ、やばい。無理矢理にでも触れたくなってしまった。
卒業式の日に、在義からの時間指定の呼び出し。
流夜はこの二年の間、神宮家事件のことで呼び出されてはほぼ待ちぼうけを喰らわせられた。
謝ってはいたけど、たぶんこれ咲桜を一人にしたことへの嫌がらせも入ってるよな……と邪推したものだ。
出来るだけ早く二人で暮らしたい。
それは同じ意見だったようで、もしかしたら今日が、咲桜が華取家にいる最後になるかもしれない。
咲桜は少し気落ちした風に見えたが、「じゃあ今日はたくさんご飯作る!」と前向きな決意。
そのために、咲桜と流夜は余裕を持って華取家に来て、夕飯の準備をした。
咲桜の料理の作り方をよく見ていた流夜は、一般的な料理なら作れるようになっていた。
見ていただけとはいえ、いわば咲桜は流夜の料理の先生だろうか。
師に恵まれれば成長の幅は知れない。