「お疲れさま」
「うん。……あ、もう零時過ぎたか?」
「えーと、廻ってるよ」
首だけ巡らして、置時計で確認する。
深夜零時五分あたりをさしている。
「咲桜、お返し」
「? なんの?」
咲桜を抱きしめていた流夜が、その腕(かいな)をほどく。
向かい合う形に座ると、流夜が鞄から包みを取り出した。
「なんのって、今年ももらったろ。バレンタイン」
「え……お返しって、ホワイトデーの? 私がもらっていいの?」
「咲桜以外に渡す奴はいないんだが……去年も、吹雪づてだけど渡したろ?」
届いてなかったか? 不安そうな顔をする流夜に、咲桜はぶんぶん首を横に振った。
「も、もらった! ちゃんとふゆちゃんにもらった!」
「うん。で、これは今年の。ちゃんと手渡せてよかったよ」
嬉しそうな顔をする流夜に、咲桜は照れてしまう。
手渡し出来ることが嬉しいのは、自分だけではなかった。
「ありがとう……」
「うん」
流夜の穏やかな笑みを見ていると、咲桜の心からはするりと言葉がこぼれてしまう。
「あの、実は私もチョコ、作ってて……その、ちゃんと渡せなかった三年分を渡したい、とか考えちゃって」
「また作ってくれたのか?」
「うん……で、デザートでもいいから、食べてもらえる?」
「勿論。むしろそれが食べたい。……悪かった、そんなに気を遣わせて」
「全然そんなんじゃないよ。私が勝手に作りたかっただけだから。今年はフォンダンショコラにしたの。今、あっためてくるね」
ローソファから立ち上がった咲桜だが、すぐにうおっと体制を崩した。
「まだ離れんの、だめ」
がっしり、背後から抱き付かれていた。