高校の卒業式の日に流夜と再会して、結婚の話が進んで――咲桜は一つ、忘れていたことに気づいた。

バレンタインだ。

一年生のときはそれこそ、それどころじゃなかったし、二年生のときも用意はしたけど自分の手では渡せなかった。

三年生の今年も、吹雪に頼んで渡してもらっていた。

卒業式を終えて、桜台法律事務所での準備と、結婚――その前の同棲の準備とに追われている中に埋没しかけていたが、今、流夜は目の前にいる。

手を伸ばせば届く距離に。

(どうしよ……ふゆちゃんが渡してないはずはないけど、受け取ったとも聞いてないんだよね……。ちょうど明日がホワイトデーだし、三年分? の意味で手渡ししてもいいかな……?)

出来たら、自分の手で渡したい。そして、すきだと告げたい。

もう恋人だし、婚約もしているけど、すきは何度だって言いたい。

明日は体よくそれが言える日だ。

今、咲桜と流夜は以前のアパートにいて、咲桜は華取の家から荷物類はそのまま引っ越すことになっていた。

三月も終わりごろに引っ越しが予定されていて、結構きゅうきゅうとしたスケジュールだったりする。

ゆっくりと家具や調度品を揃えるのは、引っ越しを終えてからになりそうだ。

それでも、入籍の日までには落ち着けるだろう。

今日は、咲桜は華取の家で荷物をまとめていた。

身重の夜々子なので、夕飯の支度をしてからアパートに戻った。

しっかり、二人分の夕飯は持って来た。

(とりあえず、作るだけ作っておこう。流夜くん、今日は遅くなるから……なんか気おくれしたらデザートって言って出しちゃえばいいしっ!)

実は咲桜、少し前から気になっていて、買い出しについでに材料を揃えてしまっていた。

(せっかく目の前で出せるから……フォンダンショコラとかどうかな。あっためて美味しいし)

流夜と付き合いだしたことをきっかけに、苦手分野だったお菓子に挑戦して以来、咲桜は結構ハマっていた。

周りに食べてくれる人がたくさんいることもあるし、遙音と結婚すれば笑満も《白(シロ)》の人間だ。

笑満が、お菓子が上手なのを知った龍生から、店に出せものを考えてみないか? と助言をいただき二人で考えながら作っているうちに、腕は上達していた。

今では、簡単な作り方のものならレシピは頭に入っている。

カップに入ったショコラが熱されているのを見て、咲桜は背後でモクモクと不安が育って行くのを感じていた。