「いや、家出というか、……その、駆け落ちというか……」
「え……奥さんがいて、子どももいるのに、ですか? それは不倫をしていたと――」
「……そうなる、んだけど……その相手っていうのがね……」
「……はい?」
夜々子が生まれてからいなくなった、ということは、在義も面識はあるのだろう。
「………恋人、男だったんだ………」
「……………え、――と。それは、つまり同性をすきになられる方だったという……?」
「そういうことだね」
「でも――箏子さんとご結婚、されていたんですよね?」
「うん……先生も、それが赦せなかったらしい。元は二人は友人でね。先生は、同性愛者であったことを怒ったんじゃなくて、それを隠して自分と結婚したことが赦せなかった。旦那さんも、隠さずに堂々と生きていれば、先生と結婚とかはしなくても、今も友人として近くにいただろうから」
「そうでしたか……。でも、正直珍しい話でもないですよね? 在義さんがそこまで話にくいこと、でしたか……? いや、俺も不躾に訊いてしまいましたが……」
お互い、仕事柄普通よりそういった人に逢うのも珍しくないと思う。
だが、在義はものすごく具合の悪そうな顔をしている。
「いや、旦那さんのことを話しにくかったわけじゃないんだよ。咲桜も夜々ちゃんも知ってることだし。……ただねえ……そのことがあってから私も箏子先生に、性別男ってだけで目の敵にされたことがあってねえ……。何もしてないのに、と言うか、存在してるだけでいびり倒された」
「………」
在義の上を行く苛烈な人か。
「それ以来、先生、男には態度が厳しくなって。……咲桜が男相手だったら簡単に暴力ふるうの、まんま先生のトレースなんだ……」
「朝間家の影響受け過ぎですね……」
どれだけ咲桜の人格形成に関わる気だ、あの母娘は。