失恋は、すきになった瞬間にしている。
でも、捨てる気も、気を変える気もない。
マナちゃんが龍さんをすきな理由の一つが、僕が生まれるまで、天龍の郷でマナちゃんのことが大丈夫だったのが龍さんだけだから、っていうのも知ってる。
そして今日が、僕の誕生日だって知っている龍さんは、苦い顔で僕の依頼を請けてくれた。
疑似、運命共同体、みたいな?
……もんでもないか。そんないいもんではないね。
マナちゃんは、僕がマナちゃんをすきなことは知っている。
知っていてこういう対応をしてくれる。優しいね。
龍さんも、マナちゃんが自分をすきなことは知っている。
知っていて、光子さん以外は特別にしない。むしろマナちゃんには厳しい。……優しいねー。
なんかどっかで――捨てられるものでもあったらいいのに。
ヒトでも物でもさ。
「……ねえ吹雪。やな視線感じるんだけど」
「うん? あー、そうだねー」
ほんっと、うっざいなあ。
蹴飛ばして追い返してもいいんだけど――今日はせっかく、マナちゃんと一緒だ。
「――わっ⁉ ふ、吹雪⁉」
「追い返すため。我慢してね」
僕はわざとらしく、恋人らしく、マナちゃんの肩を抱き寄せた。
ナンパやろー共がどういう風に誤解してくれるかは知らないけど、このくらいはいいよね?
マナちゃんは恥ずかしそうに俯いている。
「……あんたと出かけるとこういう目に遭うの、八割は吹雪の所為な気がするわ……」
「そーかな? マナちゃんが可愛いからじゃない?」
まあ僕、見た目はマナちゃんに似てるって流夜たちには言われるから、パッと見、姉妹とか思われているんだよねえ。
なので過剰にいちゃついてみました。
そんなことをしているうちに、僕らを――マナちゃんを見ていた奴らは視線を逸らしていなくなった。
いつまでも見てんじゃねえと文句つけに行く直前のことだった。ざまあ。
「あ、一つ訊いてもいい?」
「あたしに?」
「流夜のこと。……どうして、咲桜ちゃんにしたの?」