「咲桜ちゃんがさ、流夜のためにケーキ作ってるの、龍さんが教えてるんだって。龍さん、光子さんのおかげで料理万能だし。だからついででいーんでお願いしますって言ったら、すっごい苦い顔で承諾してくれたー」
「……あんたはあたしを攻撃するためにわざわざ休み取らせたの……?」
毒舌が自分に似てるって言ったの、マナちゃんなのに。
すっごい哀愁を帯びちゃった。
「マナちゃんって結構普通だよねえ」
「あんたがあたしを飛び越えて非人道になっちゃっただけよ……。またお兄ちゃんにどやされる……」
今度は頭を抱えた。
お兄ちゃん。マナちゃんの年の離れた兄は、僕の父さんだ。
マナちゃんは僕の父さんに育てられたから、全く頭があがらない。
「じゃーケーキもらいに行こっかー」
「先輩のケーキは食べたいけど、あたしが行くって言ってないんでしょ? 門前払いされるわよ?」
「マナちゃんが一緒って言ってあるよ? 僕の誕生日なんでケーキください、って言ったけど」
「………」
マナちゃん、黙っちゃった。
仕方ないから、さて龍さんとこ行くか。
水族館を出る辺りで、マナちゃんがまた小さく言った。
「……たまには、お線香くらいあげに帰ってよ?」
「大丈夫だよ。朝一で郷の方向いて手を合わせておいたから」
どうか、マナちゃんがこの一年も、命を投げ出そうとしませんように、って。
血だまりで産声をあげたマナちゃん。
第一発見者は近所の住人、猫柳龍生。
今日はマナちゃんの誕生日。
そして、僕にとっての祖父母の命日。
そんな経緯で生まれたマナちゃん。
家族――親戚の中でも、マナちゃんに普通の接することが出来るのは、マナちゃんが大丈夫なのは、僕だけだった。
父さんだってたまに困る、マナちゃんへの対応だって。
僕は無条件にマナちゃんの手を握っていた。
そうすると、泣きそうな瞳で僕を見てくる叔母。
僕はさ、別に自分がXYYだからっていう理由の逃げ道のために、結ばれることのない相手であるマナちゃんをすきなわけじゃないんだよ。
ただ、すきになっただけなんだ。
ずっと、たった一人しか見ていない人でも、すきになっちゃったんだ。
しょうがないでしょ。