「ケーキなら食べるとこ用意してるから、お昼頃行こうか」
「どこ?」
「秘密―」
「……むー」
口を尖らせるマナちゃん。あはは。かわいー。
「……あんたはいつまで経っても変わんないわね」
「どうしたの? 急に」
水槽の回廊を歩いていると、マナちゃんが言った。
「んーん。いつまで経ってもバカみたいなマナちゃんマナちゃんって。……なんであんただけ、あたしが大丈夫なのよ」
マナちゃんの呟きは、何度も聞いている。
僕に聞こえないように言っているところを。
………そうだねー。
「それはさ、僕もマナちゃんが大丈夫じゃなくて、独りでいたかったってこと?」
「……流夜くんと降渡くんに感謝しなさいよ、吹雪。あんたが独りぼっちになってないの、二人の寛大な幼馴染心のおかげよ?」
マナちゃんに斜めに見上げられた。
そんなもん、あいつらが持っているとは思えないけど。
僕らは単なる惰性だし。
「言ったでしょ。僕のベースはマナちゃんだって。だから僕だけ、家族の中で大丈夫なんじゃない?」
「………」
今度は黙り込んだ。
マナちゃんを黙らせて悦に浸る性質(たち)ではないから、早く上を向いてほしい。
……嫌が応にも向いてくれる魔法の言葉、でもあげようか。
「ケーキ、龍さんが作ってくれるって」
「龍生先輩がっ⁉」
勢いよく振り仰いだ。
その表情は驚きに満ちている。
「な、なんで先輩が、あ、あたしのために……?」
「僕のためだよ?」
その返しに、マナちゃんは一瞬停止したあと項垂れた。
「そ、そうよね……先輩があたしのためにそんなことしてくれるわけないわよね……」
あはは、面白いなー。龍さんが絡むと起伏激しいんだからなー。ネタばらし、しよっかな。