……意味わからんよな。
いや、お前が全滅させたんじゃないか、と思ったよ。
それがきっかけで、俺は天龍へ向かった。
生まれて初めて、生まれた場所へ。
そこで猫柳翁の仕掛けた罠に引っ掛かって吊るされていたところを龍生に発見されて、猫柳の家へ連れて行かれて――龍生とはこの時が初対面だ――華取の家がどういうものだったのかを知った。
呪術系統の家。
主家をも傀儡としていた暗躍の一族。
腐敗と汚濁に見事にまみれていたね。
歴史が遺してしまった負の遺産のような家だったよ。
この場合の主家とは影小路(かげのこうじ)一族なのだけど、支配していた華取を兄が全滅させたために、中は結構こじれていたらしい。
鬼を愛した強すぎる当主の登場によって、今は落ち着いているようだけど。
天龍に行って、兄の言葉の意味を知って――なら、一つだけ出来ることがあるかな、とは思った。
この血を継がせないこと。
ああそれと、実は、俺は天龍には入れないようになっていたそうだ。
一族から放逐されたとかで、もし『華取在義』を知る人間に見つかったら危ないと言われて、以降、俺が天龍を訪れたことはない。
話が逸れたね。
簡単に言えば、結婚なんかする気はなかったってことだ。
……夜々ちゃんが、ずっといたけどね。
ただ、夜々ちゃんの人生にあらかじめ俺が組み込まれていたのは、嫌だったね。
桃のことは、心の底から愛している。
だからクビ一つ差し出すことに迷いはなかった。
この子がほしいと思ったから。
自分の血ではない娘であろうと、可愛い桃の娘であるというそれだけで、咲桜を生涯愛することが出来る。
……なんかこういうこと言ってると、流夜くんの方が自分の血縁なんじゃないかと思ってしまうよねえ。
妻にバカにならないでどうするとも思うけどね。
「……ごめんな。兄さんの頼み、聞けそうにない」
兄の遺書――俺に残された『華取』はこれだけだ――を封筒にしまって、呟く。
今まではこれでよかったんだけど――桃が妻で、咲桜が娘でというそれだけでよかったのだけど。
「……欲張り、だな」
自嘲の笑みがこぼれる。