「咲桜ちゃんもそうだったわよ? 誰が抱っこしても嫌がらないから、みんなに可愛い~って言われてたわ」
「………」
流夜、少しだけイラッと。
「そうだったんですか? 自分のことなんて憶えてませんよ」
咲桜は笑って流すが、流夜は………
「まさか赤ちゃんの咲桜ちゃんまで見たかったんですか?」
「………」
夜々子に白い目で見られて、流夜はそっぽを向いた。
「さすがに犯罪のにおいがするわ。義理の息子だけど」
「夜々子さんに言われたことではない気がしますが」
娘が生まれようが、咲桜溺愛が変わらないのはこの人も、なのだ。
流夜は咲桜の存在が全肯定なだけだ。
咲桜以外はどうでもいい。
「あ、そうだわ。今度流桜も連れて、桃ちゃんのお墓参り、行きましょうか」
「え……流桜も? 大丈夫かな……」
夜々子の唐突な提案に、咲桜は渋面を作った。
流桜子が大きくなれば、いずれは桃子のこと――咲桜と流桜子では、母が違うことも話さねばならないだろう。
……咲桜の父は、在義。
それは共通の認識。
「大丈夫よ。咲桜ちゃんの妹で在義兄さんの娘よ? 強いに決まってるわ」
夜々子は胸を張って言い切る。
「……夜々子さん、未だに『在義兄さん』って呼んでるんですか?」
確かに結婚したはずなのだが。
流夜は胡乱に眉を寄せる。
「ん? 長年呼び続けた呼び方だから、なかなか抜けないわ。それに、勝負に勝った私に在義兄さんは意見出来ないから」
「勝負?」
二人の間で何かあったのだろうか。
「ええ。二十年越しの勝負よ」
はっきりと言う夜々子に、流夜は小さく言った。
「夜々子さんに似るのが、一番強いと思います」
あの在義に勝負を仕掛けて勝った、なんて、ほんと何ものだ。