居間に置かれたベビーベッドの中で、小さな赤ん坊は姉の手にじゃれていた。

「う?」

「う? だって! 流桜が喋った~! 可愛い~!」

咲桜は案の定、妹にべた惚れになった。

予想していた流夜なのでそれほど驚かない。

けど、

(……まあ、妬けるけど)

なんで自分は、性別女性にしか妬かないのだろうか。

咲桜とのことで、男に妬いたことがないんだが。

あ、頼には一応妬いた……かな?

流桜子――夜々子は、流夜と咲桜から字をもらって『流桜』とつけたかったらしいが、『夜々ちゃんの字も入れたい』という在義の要請に妥協して『流桜子』になった――は、家族の中では『流桜』と呼ばれている。

六月に生まれた流桜子は、咲桜とは十八歳差の妹だ。

夜々子は来年度から職場復帰だ。

在義は短期でまとまった休みを、何回か取るようにしたそうだ。

「よく泣かないな」

咲桜の隣で柵に腕をついて流桜子を覗き込んで、流夜は呟いた。

赤ん坊はよく泣いているイメージがあったが、流桜子はあまり泣かない方のようだ。

夜泣きもしないと、夜々子が言っていた。

「でも、元気だもんね? 流桜」

咲桜は妹の顔の前で小さなうさぎの人形をふりながら、ふにゃけた顔をしている。