「え……味が、わからないの……?」

「そう。甘いも苦いも酸っぱいも、わからん。刺激である辛みも感じないって言ってた。だからあれは、誰かと食事するの嫌いなんだよ」

「そう、なんだ……」

咲桜の視線が、自然と落ちてテーブルの上のお皿に向く。

斎月は、こんなに甘い栗の味も、わからないのか……。

「咲桜が落ち込むことないぞ? 代わりに機械並の性能の瞳と耳をもらったからつって、開き直ってるから」

「そうみたいだけど……」

斎月の瞳と耳の性能が人並み外れているのは、少し逢った中でもわかった。

目は、皮膚を通して体温まで見抜くし、耳は、どんな雑踏の中でも声を聞き分けている。

それが現場に立てば、どれほどだろうか。

「……そういや、主咲に料理を作ってあげられないのは悔しいとかは言っていた、かな……?」

流夜が思い出したように呟いた。

それを聞いた咲桜はがばりと顔をあげる。

「じゃ、じゃあ……私が斎月と一緒に、作るっていうのは、いい、かな?」

料理は咲桜の得意分野だ。

それで、斎月の足りないところを少しでも補うことは出来ないだろうか。

だって、恋人が大事にしている人は、咲桜にとっても大切な人だ。

流夜は驚いたように咲桜を見て来た。

それから、ふっと唇の端を和ませた。

「そうだな。いいかもしれない」

「ほんとっ? 今度斎月のこと誘ってみる!」

咲桜が意気揚々と拳を握ると、流夜は苦笑して頭を撫でた。

「う?」

「……弟のこと、よろしく頼む」

「―――うんっ!」

その微笑を見て、きっと、流夜もどうにかしてやりたかったんじゃないかな、なんて思った。

顔を合わせれば説教しかしなくても、流夜が家族の呼び方をするのは、弟だけだから。

(だから、私も大事にしたいんだ)

すきな人の大事な人だもの。