「ねえ、斎月って料理もカンペキなの?」
咲桜は流夜宅へ、栗の渋皮煮を持って来た。
箏子から、友達に栗をもらったからおいでなさい、と呼ばれて行き、その作り方を教えてもらった。
とにかく手間がかかった。
鬼皮だけむいて渋皮を残すのは難しかったし、一晩は重曹につけておかないといけないそうだ。
でも、すごく美味しい。
流夜は甘いものが苦手ではないので、咲桜はもちろん、食べてほしくて持って来た。
流夜が吹雪のところへ行くまでの、少しの時間。
初めて食べるようで最初は観察するみたいに摘まんで眺めていたけど、口に入れたら「美味しい」と笑みを見せてくれた。
ローソファに並んだ流夜に問いかける。
流夜は二粒目の渋皮煮を口に入れて、リスの頬袋のようになっている。
「うん? あれは料理はしないな」
「そうなの? なんでもこなしそうなのに……」
意外だ。
流夜といい斎月といい、この自称兄弟はやたらハイスペックだから。
愛子も流夜のことは「やろうと思えばなんだって出来てしまう」と評していたくらいだ。
「あー、そういう意味じゃなくてな?」
「? お料理が苦手ってことじゃないの?」
咲桜が首を傾げると、流夜は渋面を作った。
「えーとなあ……斎月は、レシピ通りに作ることは出来るんだけど、それ以上のことが出来ないって言うか……」
「それで問題ないじゃん?」
レシピ通りに出来ていれば、間違いもないだろう。
しかし流夜はまだ渋い顔をしている。
少し黙ったあと腹を決めたのか、その理由を話してくれた。
「簡単に言うとな? ……あいつは、味覚障害なんだ。生まれつきの」