「……うん。じゃあ老衰で死ぬことにする。それまで咲桜も笑満も友達でいてね。オトも」
「……そこまで極端な考えしなくてもいいけど……。生き切るんなら、文句は言わないよ」
咲桜の声は、やっと落ち着いた。
まともに起きているときの頼はいちいち手がかかる……。
「そんでさ。流夜くんと斎月姫が行った、大学、行こうと思ってる」
「………」
え?
「留学? するの?」
「うん」
「ってか……なんで斎月のことそんな呼び方……?」
確か、降渡が斎月のことをそんな風に呼んではいたけど。
「この前逢ってみた。色々怖い人だった」
頼が、珍しく渋面を作った。
……怖い人? そう言えば頼は、主咲のこともそんな風に言っていたような……。
咲桜には、斎月は最早めちゃくちゃ可愛い妹感覚なのだけど(流夜との縁で姉様って呼ばれてるし)、主咲はよくわからないままだ。
あの後に逢ったことは何回かあるのだけど、賑やかな斎月が一緒で、主咲はいつも無表情で口数も少なく、何を考えているのか、咲桜と話す気があるのかもわからない。
吹雪にそのことを話したら、「主咲はそういうヤツ。自分の仕事とバカ娘以外に興味がない。ある意味、そこは流夜と同じ」と言われた。
え、そうなの? 流夜って傍から見るとそんな感じなの? なんで自分の知っている流夜と、周りの評価の落差が大きいのだろう。
「あ、そうだ咲桜。やっぱチョコちょうだい」
「……お前本当神経図太いな」
言いつつ、一度は返された『友チョコ』を渡す咲桜だった。
その奥で、吹雪が愉快そうにしている。
……早く逢いたい、から。
せめても繋がっている糸は、切らせない。
いつかは、ちゃんと渡すからね。
「あ、そうだ咲桜。渡すって言って置いて何だけど、あいつ、バレンタインを知ってるかはわからない」



