「このタイミングというか、い、一緒に暮らし始めてすぐに帰らないとか申し訳ありませんっ」
咲桜は顔を伏せたまま続けている。
流夜はクスリと笑って、咲桜の頭を撫でた。
「顔あげて。気にするな。朝間せ――夜々子さんが心配だったんだろう? まあ、俺も少し落ち込んだけど、夜々子さんも大変な時期だもんな」
「……怒ってないんですか?」
そろりと顔をあげた咲桜が上目遣いに見てくる。
流夜はやはり苦笑する。
「咲桜に怒ることなんか一個もないだろ」
「……ほんとですか?」
「まあ、連日帰ってこなかったら落ち込むけど」
「う……」
咲桜の顔が固まった。
「うん? ……今日も帰らないつもりだった?」
それはさすがにへこむ。
「いえっ! 決してそんなわけではなくっ!」
「なら、今の反応は?」
「………」
咲桜があからさまに視線を逸らした。
「咲桜?」
「わあっ! ちょ、普通に抱き寄せないでっ。近いっ」
「自分の嫁さんなのに?」
「は、恥ずかしいんですっ!」
「なにが?」
「だから~~~流夜くんには何でもないことかもしれないけど、近づくのが恥ずかしいんですっ!」
咲桜は腕の中で暴れながら思いっきり叫んだ。
「……あ、そういうことか」
流夜、なんとなくわかった。
その反応に、今度は小さなうさぎみたいに腕の中で震えだした。反応が面白い。



